ラブ・シーン
股間が熱い。そして得も言われぬムズムズとした感覚がこみあげている。寝返りを打とうとすると、脚の間でうごめく何かが太ももをぐっと押さえつけ、逃れることができない。ああ、またか――。
「こら……だめですって……」
まぶたが開かない。手探りで下半身に触れると、まるいものが手に当たった。
「……槙島さん」
上掛けをひきはがすと銀髪があらわれた。いつのまにやらベッドにもぐりこんでいた男が、悪びれるわけでもなくブツを咥えながら俺を見ている。
彼の名は槙島聖護。この男は行きつけのクラブ『EXOCET』に突如あらわれた。彼の登場はクラブの名にふさわしい衝撃を与え――とにもかくにもこの男は顔面係数がイカレている――何人もの男女が槙島に声をかけた。口をひらけば穏やかな語り口調と低い美声。深い知性を感じさせる眼差しと、気取らないふるまい。カリスマ的な人気で彼はあっという間に人の渦の中心となっていた。俺はといえば、もちろんそこに割り込むことはなく、眼福にあずかりながら隅で酒を飲んでいた。たしかに見た目はこれ以上ないほどドタイプだったが、どういう目的で遊びにきたのか、男に興味があるのかもわからない。それに歳が違いすぎる。彼は高く見積もっても二十代。かたやこちらは中年のおっさんだ。まあ、もう二十歳も若ければ俺も声をかけていたかもしれないが。
「ねえ、君、もう少し静かなところを知らないかな」
ところが向こうから声をかけてきた。これを誘い文句と取らない男がいるだろうか? 浮かれていたわけじゃないが、俺は気がつけば大金を払ってVIPルームに案内していた。年齢的に金を持っているように思われたんだろう。それなら甲斐性を見せるのもひとつの楽しみ方だ。少なくともこの男の見た目には大金を支払うだけの価値があった。
そこからの記憶はあまりない。とにかくやたらと楽しかったことだけ覚えている。酒を飲んで酔っ払ってキスして――目が覚めたらホテルだった。
「チェ・グソンという名前なのか」過剰なほど整った顔立ちの男は、俺の財布から身分証明を抜き出していた。
「僕は槙島聖護。君に頼みがあるんだ。断ればこの動画を証拠に君を訴える」
寝起きのしかも二日酔いでガンガン痛む頭では、状況をすぐに理解することはできなかった。そんな俺の目の前で槙島は端末を操作し、動画を再生した。
――あっあ、いやだっ、ああっ!
――何が嫌なんですか? さっきからイきまくってるじゃないですか。
――ちがう、きみが、無理やり……っあ!
――無理やりハメられて感じてるのは誰なんですかねぇ?
ハメられたのは俺だ!
誓っていえるが強引に襲った事実は絶対にない。槙島聖護のあやしい囁きに惑わされただけだ。
「君、セクシーだよね」「僕は年上が好きなんだ」「君は、ベッドの上ではどんな顔をするのかな」「僕は魅力がないかい?」……断片的な記憶のなかでも、鼓膜に刻みつけられた甘い声を忘れられるわけもない。だがもちろん動画の中では嫌がる青年を無理やり犯しているようにしか見えない。しかも後に知ったことだが、彼は未成年だった。最悪だ。どうしようもない。
「君、裏では名の知れたハッカーなんだってね。欲しいな……その技術」
俺に逆らう選択肢はなかった。
とはいえ槙島の要求といえば、趣味で追っているらしい猟奇殺人犯の情報収集を手伝い(どういう趣味なんだ)、家事を代わりにするくらいだった(彼は両親がいないらしく一人で暮らしていた)。
それにしても立場が逆じゃないか?
この上なく性質の悪い男・槙島聖護が誘ってきたのはあくまで俺を騙すための手段だったようだが、なぜかあの後も毎日ヤっている……どうもそっちの《《テク》》も気に入られたらしい。初めて会ったときは、大人びていてとても未成年には見えなかったものだが、一緒に暮らしていると意外と槙島は子供っぽくわがままであることがわかった。
携帯端末で時刻を確認すると、まだ朝の六時半、アラームの鳴る三十分前だ。恋人(?)にしゃぶられて起こされるというのは男の夢だが、毎朝というのはさすがに度が過ぎている。
「もう少し寝かせてくださいよ……」あくびをしながら言うと、槙島が「時間がない。早くしよう」と言って身体に乗り上がってきた。何も着ていない。先端をぬるっと何かに擦り付けられて、俺はハッとして起き上がった。
「あれだけヤったってのにまだ足りないんですか」
これ以上出したら魂までヌかれちまうとズボンを引き上げてブツをしまう。苦しい。俺が起き上がった拍子にベッドに手をついた槙島は、不満げにこちらを睨みつけてきた。
「君こそ。僕が触る前からその気だったようだけど」
「ただの朝勃ちですよ」
こうなったら二度寝もできない。少し早いが弁当でも作るとしよう。
「……グソン」
袖がぎゅ、と引っ張られる。
振り向くと槙島が物欲しそうに膝をすりあわせている。その間では、立派な性器が反り返っていた。本当にあれだけヤってまだ足りないのか?
「仕方ねえなあ……」
槙島を後ろから抱えこむように座る。一発出せばさすがにしばらくは落ち着くだろう。ビンビンの性器を握り上下にしごく。
「あ……、ちが、そっちじゃない……」
「いれたら旦那、足腰立たなくなるじゃないですか」
「んっんっ……」
耳たぶを噛むと、槙島はぞくっとしたように身をすくめて大人しくなった。こういうところは可愛げがある。色々思うところがないわけじゃないが、体の相性は悪くねえ。それにいつ何度見てもツラがいい。多少のわがままはついつい許しちまうくらいには。
「ぁ……なあ、グソン……」
槙島が尻をもぞつかせる。スウェット越しにやわらかな谷間に挟まれ、ムスコが俺の意思を無視して硬くなった……。
「だめですって……」
「少しだけ……挿れるだけなら、いいだろ」
少しだけって、それも逆じゃないか?
「挿れるだけじゃおさまらないでしょう。どうせもう少しって言うのが目に見えてますよ」
本当は今すぐぶちこんでやりたいが、そうすれば確実に槙島は学校に遅刻する。いや遅刻しようが欠席しようが俺には関係ないが、一応、彼は未成年だ。ヤるのはともかく(?)保護者(?)いや大人として学校に通わせる義務はある……はずだ。
「我慢する……だから」
そんな俺の気は知ったこっちゃないとばかりに、槙島はぬるぬると尻を擦り付けてくる――ぬるぬる?
「うわっ、ちょ……濡れちまったじゃないですか!」
中にローションを仕込んでいたらしい。あわてて離れたが、スウェットにグレーの濃いしみができていた。しかたなくズボンを脱ぐと、槙島は何を期待したのか尻をこちらに向けて突き出した。
「グソン……したい」
正直言ってこれは悪魔的な魅力だ。これ以上ない据え膳だ。
昨晩さんざん可愛がってやって赤らんだ狭まりが、俺だけを待ち望んでひくついているのが見える。いつも今日こそは断ろうと思っているのに、下半身が言うことを聞かねえ。
「……時間になったらやめますよ?」と言いながら俺はすでに槙島の腰をつかんでいた。
「いいから、はやく……っ」
「ほんと、好きですねぇ」
下着をずらし(全部脱がないのは最後のあがきだ)、穴に入ること以外は考えていない分身を取り出す。先端の位置をあわせると、槙島は目に見えて全身をこわばらせた。
「ぁ……ぁ……♡」
緊張しているというよりは、《《入ってくる》》という期待だけで気持ちよくなっているらしい。挿れただけでイっちまうんじゃないか?
「いれますよ」
「はっあ、あ、ああっ……♡」
ゆっくりと腰を押しすすめる。槙島は心底気持ちよさそうなとろけきった声をあげているが、俺も思わずため息をついた。ローションが垂れるくらいたっぷり仕込まれていただけあって中はトロトロで、しかも括約筋が絶え間なくきゅんきゅんと締めつけてくる。回を重ねるごとにますますエロく仕上がっていくようだ。
「はー……たまんねえ……」
ナカでイかせちまうと槙島は動けなくなる。これ以上ないくらいゆっくり腰を動かして根本までぴったりとハメてやり、そこでふーと息をつく。
「ぁ……グソン、もっと……っ♡」
「挿れるだけ……って、約束でしたよね?」
これ以上はむしろ俺が止まらなくなりそうでまずい。昨日は二回も出したはずなんだが。
「は……、君は、我慢できるのか?」槙島の声がワントーン低くなった。これは悪い合図だった。
「あ、ちょ……動かないでください……っ」
「は、……んっ、あっ……」
腰はがっちりつかんで固定しているが、ほんの少しも動かないようにするのは不可能だった。槙島が身体をゆするたび、甘い摩擦が神経をなでる。
ああくそっ、どうしようもねえ。中に出したい。種をつけてやりたい。大人をナメるとどうなるのか、生意気なガキにわからせてやりたい。
欲望を誤魔化すために、種付けしてやってるときと同じやり方で、腰を密着させたまま、奥に押しこむように何度も力をこめる。
「あぁっ……あっ……♡」
「は……だんな……」
ぐりぐりと押しつける強さに負けて、槙島の腰がどんどん逃げるように落ちていく。それでもなお奥をこじあけようとしていると、最終的に槙島はべったりとうつ伏せになった。
「ぁ……っ♡」
「もう逃げられませんねぇ?」
覆いかぶさって囁けば、括約筋がぎゅっと締めつけて返事をした。槙島は無理やり気味に追い詰められるのがよく感じるらしい。わざと勝ち目のない挑発をしてそういう形に持ち込むくらいだ。隠し撮りされたときもそうだった、断じて俺が強姦したわけじゃない。
「ったくいくら若いからってヤりまくってたらバカになっちまいますよ……?」
「ぁ……できるものなら、やってみなよ……」
――この調子だ。もっとも槙島は勉強している素振りもないのにいつも成績は一番だった。家にいるときは飯と寝てるとき以外はヤってばかりで、チンポとセックスのことしか頭にないといっても過言ではないくらいだが、いったい槙島の頭の中はどうなっているのか。
「ほんと、生意気ですねぇ」
「あっ、あっ——♡」
《《いいところ》》を数度突いてやると、槙島は脚をぴんと伸ばして感じ入った。
「ぁ……もっと……っは、あっ、あっ♡」
「わかってますよ……ここがいいんですよね?」
「ぁっあっ♡ グソン、っ、あ♡」
「はー……はー……旦那……」
我慢汁とローションが混じり合い、ぬちゅぬちゅと泡立って具合がいい。腰が止まらねえ――!
――ビーッ、ビーッ!
これから盛り上がるというところで、時刻を知らせるアラームが鳴りひびく。もともと眠りを覚ます音に癒された試しはないが、この時ほど邪魔に感じたことはない。震える端末をわしづかみ、アラームを止めて放り投げる。
「ぁ……、ぐ、そん……?」
「申し訳ないんですが、今日の昼は買ってください」
いやそもそもこれは槙島の自業自得だ。
「ぁ、あっあっ♡」
「旦那もこうされたかったんですよねぇ?」
「んっ……♡」
――それから遅刻するギリギリまでヤり続け、案の定立てなくなった槙島を、俺は車で学校まで送り届けた。
「グソン……出したい……いいだろ……」
「だめですよ。俺も出してないんですから。帰るまで我慢してくださいね」
槙島は顔は真っ赤に息も荒くして、スラックスには形がくっきり浮き出ていた(我慢汁が止まらなかったのでスキンをつけた)。こんな出来上がったエロい状態のまま置いていくのはさすがに不安だったが、幸い校門に着くころには落ち着いたようだった。
「ちゃんと授業受けるんですよ。帰ったら好きなだけしてあげますから、ね?」
「ん……」
槙島は上の空だった。授業に集中できればいいが。