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創造性概念閉鎖空間・異説

「その……本当にごめん……ヒュトロ……」 「いやあ、ワタシこそ、間の悪いときに声をかけてしまったね」  ヒュトロダエウスは、うなだれて落ち込んでいる彼をやさしくなぐさめた。  まっしろで殺風景な空間は、彼の創造魔法によって創り出された概念性の空間だ。エーテルをつかさどる眼で視れば、魔力が鎖のようにこの箱庭をがんじがらめに縛りつけている。  並の魔道士が創りだしたものであれば、どうにかしようもあったが、彼の規格外の魔力量により、強固な概念として顕現した空間は、無理やり突破をこころみれば、その反動でこちらの肉体が危うくなる。念のため、外側の世界にいるハーデスにむけて救難信号を送ってはみたが、届くかどうかはわからない。  だが術式に《《完全》》を存在させることはできない。不死鳥のイデアが、完全なる不死ではなかったように。ただ待ち続けるよりは脱出を試みるほうが有意義だろう。 「このイデアを飲んで、二十四時間、射精をしなければ出られる……ねえ」  ヒュトロダエウスは、空間の中央に安置されていた小瓶をかざし、中身を《《視て》》笑みをうかべた。 「もともとはハーデスと一緒に入る予定だったんだろう? そんなに……その、間違っていたら申し訳ないのだけれど……彼はキミとセックスしてくれないのかい」 「セッ……いや、な、なんでそんなことを……」 「ワタシが急に声をかけたせいで、雑念がまじって歪んでしまったようだけれど、元のイデアには《《セックスをしないと出られない》》という概念が刻まれているからね」  さすがは創造物管理局の局長というべきか——すべてを見透されて、彼は赤面する他なかった。  ヒュトロダエウスの言っていることは事実だった。彼はハーデスに抱かれたことも、抱いたこともない。同じベッドに横たわっても、キスをしても、素肌を触れ合わせても、それより先には進まないのだ。性的な行為をしたことがないわけではない。たがいに性器を手で擦りあったり、舐めて愛し合うことはあるが、挿入の必要性を感じていないらしい。彼は一度ひとつになりたいとねだったことがあるが、結局エーテルを交わすだけで終わってしまった。  彼にそう説明されて、ヒュトロダエウスは、なるほどね、とうなずいた。  手の中の小瓶の中身は《《媚薬》》だ。それも飲めば射精への欲求が高まるだけでなく、同じ空間にいる相手とセックスがしたくなるように創られている。だがこの空間は《《セックスをすると出られない》》と言っても過言ではない。彼が創造魔法のイデアを練っているときに、興味本位で背後から話しかけたせいで雑念がまじったのだろう。おそらく抑圧された深層心理がそのまま現れたりだとか、獣のように求められてみたい欲求だとか、あるいはひとりでは成立し得ないイデアの矛盾をとっさに解消しようとしたのか。 「まあ、元のイデアのままではなくて、何よりだよ」  空間から出るためとはいえ、親友の恋人と寝るなんて。話を聞くかぎり、ハーデスは肉体的なまぐわいをそれほど重視していないようなので、おそらく彼がヒュトロダエウスとセックスしようが、ハーデスがそれでヒュトロダエウスを責めることはありえないだろうし、友情に亀裂が入ることもないだろう。しかし彼はヒュトロダエウスと相対するたびに、いたたまれない気持ちになるに違いない。 「……えっと、そのイデアは僕が飲むよ。これ以上君に迷惑はかけられない」 「それはつまり、キミはワタシとセックスしたくてたまらなくなるということだけれど、それで本当にいいのかい」  うっ、と言葉に詰まった彼に、ヒュトロダエウスがさらに追い討ちをかける。 「脱出できたとしてもイデアの効果はなくならない。キミがワタシとしたがっている姿を、ハーデスに見られるかもしれないよ」 「……それは……でも……」 「それにキミは、二十四時間、出さずに我慢できるのかい。……欲求不満なんだろう?」 「…………身体をエーテルロープで拘束して……」 「前にハーデスの拘束を力ずくで破ったこと、忘れたのかい」  彼はいよいよぐうの音も出なくなった。たしかに飲むならヒュトロダエウス以外の適任はいないと思うほどだ。いつもどこか掴みどころのない、穏やかな微笑の似合うかれが、理性を飛ばす姿など想像もできない。 「本当にごめん……僕にできることならなんでもするよ」 「なんでも?……へえ。それは愉しみだ」  ヒュトロダエウスの底知れない微笑に、彼はぞくっとするような気配を覚えた。 「どうしたんだい、そんな顔をして。また面白いイデアを持ち込んでくれないかなって、ただそれだけだよ」  まるで気のせいだったかのように、柔和な雰囲気に戻る。今の予感が一体なんだったのか、しばらくして彼は思い知ることとなった。  フーッ……フーッ……。  ヒュトロダエウスのくぐもった荒い吐息が、狭い空間のなかに響きわたる。膝をかかえる手はローブをくしゃくしゃにするほど握りしめられていて、噛み締めた布地に唾液がしみていた。股座ではこれ以上ないほど張りつめた逸物が、下穿きはおろか床まで湿らせている。  彼がちらちらと視線を寄越してきているのは気配でわかっていた。しかし、大丈夫、心配ないよ、と声をかける余裕も、ヒュトロダエウスにはもう残されていなかった。エーテル視で彼を覗き視ないように意識するだけで精一杯だ。さすがは彼の創ったイデアといったところだ。強固な概念にむしばまれ、思考が歪んでいく。  しまったなあ。と、それでもどこか冷静で他人事な思考が浮かんだ。射精を抑制するイデアなどもあるというのに、早くに創っておかなかったのは失敗だった。もう遅い。イデアクリスタルなしに再現するには意識が朦朧としすぎている。 「ヒュトロ、……大丈夫かい、僕になにかできることは……」  当の創造主は、このイデアの恐ろしさをまったく理解していないらしい。ヒュトロダエウスは無視する他ないというのに、声をかけるだけならいざ知らず、彼は肩にそっと触れてきたのだ。  反射的に振り払うと、彼は「あっ……」と声をあげて後ずさった。その声にさえ衝動がかきたてられる。頭がおかしくなりそうだ。ゆっくりと顔をあげて、彼を視界におさめる。おびえたような瞳と目が合った。 「……キミは、ワタシに犯されたいのかい」  彼の喉仏がうごいた。ぎらぎらとしたまなざしが、そのわずかな変化さえ舐めるように彼のからだを這う。その触れてきた手を強引に引き寄せて、腕の中におさめて、首筋に噛みついてやりたい。足をむりやり開かせて、誰も受け入れたことのないそこに突き立て、思う存分腰を振りたくり、何度も何度も種を吐き出して、エーテルを染め尽くしてやりたい。そんな獰猛な衝動の気配が彼にも伝わるように、視線をなみなみとそそぐ。彼のエーテルがざわめいている。まるで期待するような揺れ方。本人も意識していないところでほんのわずかに望んでいる。それがわかってしまう眼が今は疎ましい。心の中でなにを思っていようと、言葉や態度に出さなければ、誰にも干渉されないはずのものを、暴いてしまいたくなる。彼は堕ちるのだろうか。そうだ、ハーデスを想っているのなら、彼が耐えればいいのだ。 「……ぁ……ヒュ……トロ……?」  気づけば彼がほんの近くにいた。無意識のうちに身を乗り出して、彼を壁に追い詰めていたのだ。ぞくぞくとした興奮が駆ける。  ヒュトロダエウスは彼を一切拘束してはいない。ただ膝だちして壁に腕をつき、見下ろしているだけだ。ローブを押し上げ、布地を濃く変色させている逸物が、彼の目の前にある。誇示するように腰を突き出してみせると、彼は顔をそらして避けようとしたが、目は離せないようだった。ヒュトロダエウスを刺激するのを恐れて、逃げることができない。もっとも逃れようとしたところで、この閉鎖空間では無意味なことだ。彼は肉食獣の入った檻に放り込まれた草食獣でしかない。 「だ、だめだ……っ」  そのかよわい抵抗もヒュトロダエウスの獣欲を煽るだけだった。ローブの膨らみをみる目に、物欲しげな色が含まれているのも、彼の心臓が破裂しそうなほど高鳴っているのも、すべて見透せてしまうのだから。 「ぁ……っ」とうとう彼の頬に、ねっとりとした体液が付着する。逸物の先端を押しつけてやったヒュトロダエウスは「はー……」と深いため息を吐いた。気持ちいい。ぬるぬると腰を動かして、唇に狙いをさだめる。きゅっと結ばれた口唇をこじあけることはかなわないが、やわらかな肉に擦りつけて、べとべとに汚すだけでも《《犯したい》》という欲が満たされた。 「待っ……ヒュトロ、正気に……んぶっ」  制止するために口を開いたところめがけて、ぐっと腰を突き出した。濡れて輪郭がくっきりと浮かび上がった亀頭が、彼の咥内に押し入る。先端だけをずぽずぽと出し入れすると、痺れるような悦楽が走った。腰がとまらない。だめだ、出てしまう。 「——……っ……く……!」  ひくっ、ひくっ、と逸物が痙攣する。  ぎりぎりのところでかろうじて射精はこらえた。けれども止めどなくあふれる先走りは、彼の咥内を満たしていく。  ヒュトロダエウスは腰を引くこともできずに、ただ荒く息を吐いた。逸物の先端をやわらかく食んだままの彼も、うかつに喋ることもできず、ただ懇願するように見上げてくるばかりだ。 「ワタシを……拘束するんだ」  焼き切れそうな理性をどうにかたぐりよせて告げる。これ以上は保ちそうになかった。  本気で身の危険を感じたらしい彼は、覚悟をきめたような目をして、ヒュトロダエウスを押しのけた。後ろに倒れそうになったヒュトロダエウスを支えて、壁にもたれかけさせ、手首をエーテルロープで拘束する。 (もっとがんじがらめにしてほしいんだけれどなあ)  後ろ手に括り付けられるならともかく、身体の前で手首が拘束されたくらいでは、彼を犯すことはできなくとも、自慰はできてしまう。けれど、そう口にするほどの理性はもう残されていなかった。本当に出したくなったら出してしまえる、その逃げ道を無くしたくなかった。まだ耐えていられるのは、皮肉なことに、彼をむさぼりつくしたいというもうひとつの欲求のおかげだ。どうせならもっとも濃い子種を、エーテルを、彼の内にそそぎこみたいと願っている。 「ヒュトロ……ごめん、やはり僕が飲むべきだった……」  ヒュトロダエウスの額にはりついた髪を、彼の指がかきあげる。そのわずかな刺激だけでも今は堪えがたいというのに。いっそ苛立ちがわいてくる。 「たしかにそうすれば、キミがワタシの味を知ることはなかったかもしれないね……少なくとも、ワタシは手を出さなかった」  いくら誘惑されたとしても、イデアを飲んでいない状態なら、間違いを犯すことはないと断言できる。 「でも、キミは……違うよねえ。どうして欲情しているのかな」 「……っ、これは……」  いまさらだというのに、彼は咄嗟に股間を隠すように手でおさえた。 「フフ……大丈夫、ハーデスには秘密にしてあげるよ。そのかわり、気を紛らわせるのをすこし手伝ってほしいんだけれど」 「そ、のくらい、なんだってやるよ」 「……助かるよ」  ヒュトロダエウスはつとめて普段の微笑をつくってみせた。 「さっきから下着が苦しくてしかたがないんだ。キミが脱がせてくれないかな」  彼は一瞬戸惑ったようだったが「わかった」とうなずいた。膝をたてて座るヒュトロダエウスの、ローブの裾から手を差し込み、中を見ないように股ぐらをさぐる。ぐちゃぐちゃに濡れたそこに触れて、逸物がびくっと跳ねる。 「ごめ、……」幾度目かの謝罪を口にしかけて、彼はヒュトロダエウスの目を至近距離から覗きこんでしまった。  睨め付ける、という表現では生易しい。カッと瞳孔の開いた眼が彼を射抜く。手首を拘束するエーテルロープが、ぎちっと不穏なきしみをあげる。今すぐ逃げろ! 本能が警鐘をならした。だが瞳に囚われてしまった身体は動かなかった。 「……ちゃんと見て、やってくれるかい。それともキミは、たまたま当たったふりをして、ワタシを苦しませるのが趣味なのかな」  彼はかぶりを振って否定した。視線を落とし、ローブの裾を震える指で、おそるおそるめくりあげる。それだけでむっとした熱気がたちこめる錯覚がして、脳がくらくらと揺れた。布地ごしでもその圧倒的な存在感はそこなわれない。それが先ほどまで、ほんの一部とはいえ、口に入っていた事実を意識すると、咥内に唾液があふれてきて、何度も飲み込まざるを得なかった。  ——おかしい。僕は、イデアを飲んではいないのに。どうしてこんなに……欲情して。  考えれば考えるほど、底知れない沼に堕ちていくようだ。彼は無心になろうとした。ヒュトロダエウスは、恋人の、親友なのだ。そんなかれとどうにかなったら、自分が糾弾されるのはいい、しかし、かれらの友情を傷つけることだけは、絶対に許されない。  これはヒュトロダエウスの苦痛を軽減するための、ただの医療行為だと、自分に言い聞かせながら下穿きに手をかける。エーテルに分解すればいいと、単純な術式を構築しようとするも、ふわふわと浮くように、定まらない。なんてことだ。彼はバクバクと激しく脈打つ心臓と、荒くなる呼吸に、酸欠のような感覚を抱いた。ヒュトロダエウスの立場ならわかる、とても魔法を使える精神状態ではないはずだ。けれど、ただ雰囲気にあてられただけの自分までが、そうなってしまうなど。 「はやく、してくれないかい」  かすれた声に催促される。彼は術式をあきらめて「腰を……あげてほしい」と口にした。ヒュトロダエウスは片眉をつりあげたが、なにもいわずに言うとおりに腰を浮かせた。  一息にずるっと引き下ろす。びたん! と腹に打ち当たったそこから、粘液がはげしく散った。ヒュトロダエウスは、汗に濡れた首をそらし、歯を食いしばってその衝撃に耐えた。あらわになった逸物はイデアのせいか、それとも元からなのか、凶悪なおおきさで、太い血管が浮き出ていて、雁首の段差はえぐいほどに深く、とてもあの柔和な局長のものとは思えない。いつもおだやかな微笑を湛えながら、漆黒の装衣の奥では、こんなものを眠らせていたのかと思うと、脳が熱に浮かされたようにぼうっとした。連想してしまう。ヒュトロダエウスは、どのようなセックスをするのだろうと。 「そんなに欲しいのかい……コレが」  穴があくほど見つめていた彼に、ヒュトロダエウスの声がふりかかった。次の瞬間、エーテルロープに拘束されている手が、彼の頭を押さえつけた。 「うっ……」地べたに這いつくばるような形になり、床についた手のひらがねちゃりと粘液に濡れた。さらに頭上から粘液がつう——と滴り落ちて彼の髪にしみわたる。必然的に視点の低くなった彼の視界に、ずっしりと重みに垂れる陰嚢がなまなましく映った。 「ほ、し……くない……」 「それはよかった。それならもう少しこのままでいてくれるかな。キミの吐息がきもちよくて気がまぎれるんだ」  ヒュトロダエウスは、半端に脱げた下穿きを、拘束された手で器用に足から抜いて、さらにめくりあげられたローブをおろし、彼ごとしまい込んでしまった。  布地で覆われた空間に閉じ込められた彼の鼻腔を、先ほどよりも濃厚になった空気が侵食していく。 「ぁ……ぅ……」からだを支えていた腕から力が抜けて、粘液の海に頬がしずんだ。ヒュトロダエウスがいつも身につけている、香のイデアと体臭がまじりあった匂いに、意識がおぼれるように混濁する。  それはほんのわずかな時間のはずだった。ヒュトロダエウスという存在をあますことなく嗅がされ、取り込んだ空気が、肺を通り、吸収され、内側からたっぷりと犯されたのは。だが裾がもちあげられ、清浄な空気にさらされても、失われた正常な思考力はもう戻ってはこなかった。 「聞こえているかい」  ヒュトロダエウスの両手に彼の顎をすくわれる。自身とは対照的に、幾分か落ち着いたようなまなざしに覗きこまれながら、彼はぼんやりとうなずいた。見せかけだけの余裕だということを見抜けるほど、彼の眼は優秀ではなかった。 「直接キミとセックスをしなくても、それに近いことをするだけで、だいぶ楽になるみたいだ。だから——ワタシの上にまたがってほしいんだけれど」  理由を話されなくても、彼は従っていたに違いない。内容のほとんどは耳には入っていなかった。ただ先ほどと同じように、惚けたようにうなずいてみせただけだ。  ヒュトロダエウスは、それを頭では理解していながら、理解していないふりをした。彼の言質を取った。それだけだ。フフ、とわらいながら「おいで」とみじかく告げる。  彼はただ命令を遵守する人形のようにふらふらと起き上がり、ヒュトロダエウスの立てられた膝の奥にまたがった。  装衣ごしの逸物が、ごりっと尻臀をえぐる。 「っ……あ……だ、めだ、ヒュトロ……ぅあっ!」  彼の瞳に光がわすがにもどった。逃れようと浮かせた腰は、しかし、追い立てるようにして下から突き上げられて、彼の背筋はぴんとそりかえり、へたりこむようにして元の位置におさまってしまった。 「ねえ、……これ、外してくれないかい」  ヒュトロダエウスが、自分でそうしてほしいと請うたはずの拘束を解くようにもとめる。 「だめ、だめだ、ヒュトロ……」 「どうして? キミだって、ワタシに抱かれるのを期待しているんだろう」 「っ……そんな、ことは、ないよ……」 「へえ……本当に?」 「本当……っあ……ヒュトロ、腰……止めっ……」  尻のあわいをごりごり擦りたてられて、たまらず腰を浮かせると、今度は体重という枷がなくなったことによる突き上げが襲いくる。結果的に彼はヒュトロダエウスの上にまたがったまま、できるだけ自重で押さえつける他なかった。だがそうするとまるで、自分から尻をおしつけてねだっているような、錯覚に陥りそうになった。たえまなく滲み出てくるヒュトロダエウスの先走りが、彼の装衣にもしみこんで、濡れた感触が伝わってくる。しだいに、ぬちぬちといった音がひびくほどに。 「ワタシがどんなセックスをするのか……想像したんじゃないのかい」  ぁ、と彼の口からあえかな声がもれた。 「ワタシのは、すこし……大きいみたいだからね。最初はゆっくり、ゆっくり動かして、形をなじませるんだよ」  そのときの動きを再現するように、ヒュトロダエウスの腰がゆったりと彼を揺さぶった。かるく円を描くような腰使いは、まさに《《なじませる》》ための生々しい動きだ。 「ナカがゆるんで動きやすくなったら、気持ちいいところを擦る……どうやって擦られるかは、キミにはもうわかるよねえ」  ぐりぐりと会陰部をえぐられる。奥の前立腺が刺激されて、えもいわれぬ快感がはしった。彼はヒュトロダエウスの肩口に顔をうずめながら、無意識のうちに、ちょうどそこに当たるよう腰をうかせて悦楽に浸った。  思い描いてしまう。その形も、感触も、熱さも。雄として優秀な遺伝子をもったそれに蹂躙されるよろこびを。太い亀頭に《《気持ちいい》》ところをえぐられる快楽を。  彼はハーデスとそのようなことをしたいと願いつつも、具体的な内容について、想像したことがあるわけではなかった。行為としての知識はあったものの、すべてはうわべに過ぎなかったのだ。彼は漠然と抱かれるか抱くかしてひとつになるのだと思っていた。しかし、ヒュトロダエウスに知らしめられた《《セックス》》は、そんな生易しいイメージではない。雄としての敗北だ。肉体を通じて心をかよわせる、おだやかな交わりとは一線を画す、支配者と従属者、あるいは、捕食者と被食者の関係。 「……でも、今はただ……」  ヒュトロダエウスのささやきが、彼の耳に直接ふきこまれる。 「動けないように羽交い締めにして、思いきり腰を振りまくって、空になるまで出したい……それだけかな」  ひくっ、と性器が反応した。それは密着しているヒュトロダエウスにも、はっきりと伝わっただろう。フフ、とわらう吐息が耳にかかって、彼は身震いした。  今、かれの拘束を外したら、どうなってしまうのだろう。押し倒されて、足を思いきり開かされて、ハーデスさえ受け入れたことのないそこへ、この悪魔のような逸物を埋め込まれるのだろうか。そして、かれの言う通りに、羽交い締めにされて腰を振りたくられて、中からあふれるくらいそそぎこまれて、それでもなお獣のように延々と突かれつづけるのだろうか。媚薬の効果はいつまで続くのだろうか。ヒュトロダエウスの気がすむまで、どれくらいかかるのだろうか。解呪条件を満たせなかった場合は、一生この空間から出られなくなるのだろうか。  ぞくっとした。  出られなくてもいいから、抱かれてみたい、貪られてみたい、そんな願望をかき消すように、彼は唇をつよく噛んだ。 「……だめだ、ここから、出られなくなる……」 「出られなくなるのが問題なのかい?」  彼はなにも答えなかった。 「外しておくれよ……」彼の耳をヒュトロダエウスの舌が這う。溝に沿うようになぞりあげると、長い舌が孔にはいりこみ、ぐちゅぐちゅと音を立てた。彼はヒュトロダエウスにしがみつき、明らかな快楽に身をはねさせても、それでもかたくなに拘束を解かなかった。 「ぁ……っ、いっ……!」  軟骨がぎりっと噛みしめられる。皮膚がやぶれるほどではないが、歯形は確実についただろう。ヒュトロダエウスは「ああ、痛かったかい」と少しも悪びれる風もなく、たった今かじったそこを癒すようになめた。 「キミのエーテル……とても、おいしい……」  執拗に耳を責め立てていた舌が下へ向かい、首筋にうかぶ汗をなめとった。はぁ、はぁ、と興奮した吐息をかけながら、何度も、何度も、頸動脈をなぞる。毛づくろいのような獣じみた所作で、体液に含まれるエーテルを味わう。 「……まだ外してくれないのかい」ヒュトロダエウスの声には繕われた余裕もなくなっていた。 「ひっ……あ」催促するように、ぢゅうッ、とつよく首筋にしゃぶりつかれる。 「いっそキミを射精させたら、諦めてくれるのかな」 「やめ、っ……ヒュトロ、落ち着いて、息を……」 「あー……っ、邪魔だなあ、この拘束……っ!」  いらだちを隠しもしない声音に、彼はひゅっと息をのんだ。誰かが感情をあらわにする姿など、そもそも見かけることすら稀で、それさえ弁論がほんの少し、ヒートアップしてしまったくらいのものだ。こんな暴力的な、吐き捨てるような言葉など聞いたこともないし、よりにもよってもっとも無縁であろう、ヒュトロダエウスからそれが発せられたことは、あまりにも衝撃的だった。 「外す、外すから、いつもの君に戻ってくれ……っ」  ぎちぎちと悲鳴をあげるエーテルロープは、千切れこそしないものの、ヒュトロダエウスの手首に赤い跡をきざんでいる。彼は涙を浮かべながら、震える手でその拘束に触れ、魔力紋を照らし合わせた——。 「……おい、無事か」  唐突に空間がゆがみ、あらわれたのは、彼の恋人であり、ヒュトロダエウスの親友である、ハーデスだった。 「……やあ。ワタシの保険がきいたみたいだね」 「ハーデス……っ! んっ、やめ」  すでに拘束は解かれている。ハーデスの目の前で、ヒュトロダエウスに首筋を舐められ、彼はあわてて「ヒュトロは僕のかわりにイデアを」と弁護しようとするも、言葉の途中で腰をぐいぐい押しつけられ、ままならなくなった。  どうにか悪いのは自分だということを伝えなければ。ハーデスの表情は、仮面に隠されていて窺えない。どういう目でみられているのだろう。ヒュトロダエウスに一方的に襲われているように見えるのは、好ましくない。これはイデアのせいで、むしろ自制がきかなかったのは、彼自身のほうなのだ。 「ごめ、……ハーデス、僕は」 「……この部屋に刻まれた術式で、おおよそはわかっている。こいつが——ここまでになるとはな」 「はー……、はー……、それで、ワタシたちは出られるのかい」  ヒュトロダエウスは我慢の限界だというように、彼の尻臀を揉みしだきながら言った。外側からエーテルをたどって入ることはできたらしい。では脱出することは可能なのか。 「……無理だな。そのまま耐えていろ」 「冗談だろう?」  ヒュトロダエウスは乾いた笑みを浮かべた。口の端がひくひくと痙攣している。 「もう限界だ」平坦な声でささやかれた言葉とととに、彼はなかば悲鳴をあげた。臀部を鷲掴んでいた手が前にまわり、性器をにぎられたのだ。亀頭を激しい手つきでこねまわされて、逃れようともがけば、雌をおとなしくさせるかのように首筋に噛みつかれる。 「あっ、あっ、はーですっ、助けっ……!」  ヒュトロダエウスの長い指が、しなやかで繊細な動きの似合う指が、布越しに彼の性器を逆手に握りこみ、裏筋をぐりぐりと関節でえぐめに刺激しながら、雁首のくびれを挟むようにして扱きあげる。  味わったことのない暴力的な快感に、彼はヒュトロダエウスに身を預けて「あー……っ」と唾液をたらした。  ごくっ、と嚥下する音が、荒々しい吐息と粘着質な音のなかでもはっきりと響いた。 「フフ、どうかしたのかな、早くワタシを止めないと……彼を食べてしまうよ」  ほとんど食べているようなものだけれどね、と嗤いながら歯形のついた首筋をなめ、吸いつき、鬱血を残していく——ハーデスは動かない。 「何をしているんだい。  ……早くワタシを拘束するんだ!」  ほとんど怒鳴るような声が発せられて、部屋の空気がぴんと張りつめた。  一瞬の沈黙をやぶったのは「あ……っ」という、さながら断末魔のような彼の声だった。恐怖が引き金となり、ぞくぞくとした電流が背筋をかけぬけ、急激な射精感がこみあげる。 「いや、だめだ、なん、で……あ、あ、あ!」  ヒュトロダエウスの手の中で性器がはねた。びゅっ……びゅっ……と子種が漏れていく。彼が達していることは、その恍惚とした表情が見えなくとも明らかだった。だが真っ白になった頭では、ハーデスに見られていることさえ、快感の一部でしかなかった。ヒュトロダエウスの手に、よしよしとなだめられるように、射精がおわるまでねっとりと扱かれて、ひくん、ひくん、とからだが震える。  創造空間は、彼の射精には反応をしめさなかった。媚薬を飲んだ本人の射精のみ感知するようだ。しかしだからといって、危機が過ぎ去ったわけではない。ヒュトロダエウスは何度出していてもおかしくないくらい、とうに限界を超えているのだ。 「ここまできたら一緒なんじゃないかな。ワタシの手できもちよくなって、抱かれたいと思って、それってもう、ワタシとセックスしてるも同義だと思わないかい?」  ヒュトロダエウスの指が、彼のローブの中にもぐりこみ、尻のあわいをなぞり、先走りで濡れそぼった窄まりをぬるぬるとなぞった。絶頂の余韻にひたる彼が小さく「ぁ」と鳴く。ほんのすこし力をこめると、存外たやすく指先が侵入した。一度も受け入れたことがないにしては、やわらかい。多少はきついかもしれないが、きちんと濡らせばすぐにでも挿れることができそうだ。それは、どちらの《《立場》》でも問題がないように、彼が準備をしていた為だった。恋人に抱かれるために解されたそこは今、その親友に暴かれようとしている。 「ねえ、ハーデス、彼を抱いてもいいかな。嫌ならはやくワタシを拘束するんだ。ほら、いいのかい」  あえてぬちぬちと音を立て、すでに彼の中を指で犯している事実を突きつける。蜜をすくっては中に塗りつけて、二本目の指も簡単に入りこんだ。 「……手を出せ」ハーデスはやっとの思いで声をしぼりだした。 「フ、フフフ……、キミたちのためだよ、本当に……」  ヒュトロダエウスの声は震えていた。熱くぬめった体内から引き抜いた指さえも。  ぐったりともたれかかっていた彼のからだが、押しのけられるようにして解放されたとき、その震えが伝わった。 「ヒュ……ヒュトロ……」 「あー、どうしよう……フフ、力ずくで抵抗したくなるよ……」  ぜえぜえと息を吐く親友に、ハーデスはなんともいえない表情をうかべながら、罪人のように差し出された両手に、頑強なエーテルロープを巻きつけた。途端に乱暴にふりはらわれて、ハーデスは数歩しりぞいた。  ぎちぎちと拘束具をきしませながら、ヒュトロダエウスはその場にうずくまった。 「苦しい……」といつもの飄々とした態度とは似ても似つかない、だからこそ本音のにじみでた吐露だ。  彼はハーデスを見上げた。 「ハーデス……その、僕は……君が好きだ。だから、君の親友であるヒュトロも大切にしたい……」 「……それは、こいつに抱かれるということか」 「君に嘘はつきたくない。……僕は、たしかに、彼に抱かれたいという気持ちを抱いたし、君が来なければきっと今は……」  彼は、身をよじらせながら衝動に耐えるヒュトロダエウスに目を向けた。その目はうつろで、ため息のようなうめき声をあげては、虚空に腰を突き出している。かれを苦しみから解放したい。その気持ちは、ハーデスも同じに違いない。自分の創り出したイデアのせいならば、なおさら、その責任は自分でとりたいのだ。 「……嫌というわけではないんだな」 「僕は、ただ君と彼の友情をこわしたくない……」 「……そのくらいのことで、私がお前たちを見限ると思うか?」  ハーデスが仮面をはずした。  彼を見つめるその瞳は凪いでいた。みくびるなよとでも言うように口角をつりあげて、ぱちん、と指を鳴らす。 「ンッ……!」ヒュトロダエウスが身をのけぞらせた。何をしたのか、と彼が目で問いかけると、さらにもう一度指が鳴り、彼とヒュトロダエウスのローブがエーテルに分解された。 「は、ハーデス……っ?」 「あいつには射精を抑制する術式をかけた。好きなだけ抱かれてこい」  気後れしたようにもごもごとする彼を、ハーデスは片膝をついて優しく抱き寄せた。何を不安がっているのかと唇をよせる。  相手がヒュトロダエウスであるなら、なおさらだ。口にしたことはないが、あいつは他者を裏切るようなやつではないと、心底信頼しきっている。事実、ハーデスをこの場に呼んだのは他ならぬヒュトロダエウスで、限界を超えても耐え続けていたのだ。  あるいはすこし出会い方が違えば、彼はヒュトロダエウスの恋人であったかもしれないのだ。あいつに任せるのなら、安心だとさえ思う。つかみどころのないように見えるが、あれでいて人の心を、本質を見抜く眼をもっている。そして決して傷つけるようなことはしない。  ともかくハーデスにとって重要なことはむしろ、彼自身の望みなのだ。その魂は自由のなかでこそ輝くのだから。恋人としてでも友人としてでもいい。だがその輝きに触れることができるなら、それ以上はない。 「で、でも、ハーデス……僕は君に……っ」 「ハー……デス……キミは、自分が何を言っているのか、わかっているのかい……」  うずくまりながらもふたりのやりとりを聞いていたヒュトロダエウスは、彼の言葉をさえぎりながら、乱れきった髪の隙間から、獣欲のにじむ目をのぞかせた。 「後から後悔しても……知らないよ」 「するものか」 「彼がワタシのものになってもかい?」  ヒュトロダエウスの挑発的な言葉にたいして、ハーデスは皮肉な笑みをうかべた。 「そもそも、こいつが私のものだったことは一度もない」 「……え……は、ハーデス……?」 「フ……フフフ……っ、たしかに、キミはいつもこの街に置きざりだ」  ずるりと身体を引きずるようにして、ヒュトロダエウスが上体を起こす。はあ……と熱いため息を吐いて脚を緩慢なしぐさでひらき、その中心を見せつけた。根元には射精抑制の術式をきざまれた輪の枷が嵌っている。  彼は息をのんだ。布地に隠されていたときとは、比べものにならない存在感を誇るそれが、唇に咥えさせられたときよりも、太くなったように見えるのは、気のせいではないだろう。 「そんなに抱かれたいか」ハーデスは、親友に目を奪われている彼にささやきかけた。彼はちがう、とは口にできなかった。嘘になるからだ。しかし。 「ハーデス、僕、僕は……」 「それじゃあ、ワタシがキミの恋人をめちゃくちゃに犯すために、これ……外してくれるかい」  彼は焦ったようにハーデスにすがりついたが、ヒュトロダエウスがその言葉をさえぎった。 「……ああ」  ハーデスが指を鳴らした。  ヒュトロダエウスの拘束が解かれるとともに、彼の背がとん、と押された。 「待っ……待ってくれ、ハーデス……んッ!」  救いをもとめた手はヒュトロダエウスによって床にぬいつけられ、唇にぬるりと舌が侵入した。首を振って逃れようとするも、今度は後頭部をがっしりとつかまれて、噛みつくようないきおいで、長い舌が奥ふかくまで挿し入れられる。  彼は自由な片手でヒュトロダエウスの肩を押し返そうとしたが、咽喉を舌先でねぶられて、力が抜けた。ハーデスのキスとはまったく違う。溺れてしまいそうなキスだった。  彼の抵抗が弱まると、荒々しさはねっとりとしたしつこさに変わった。奥に引っ込んだ舌を吸い出されて、まるで性器をしゃぶるように唇でしごかれ、裏や先端を舐められる。じゅるじゅるという激しい音で耳さえ犯される。舌がしびれるのではないかと思うほど、執拗にむさぼられ、ようやく唇がはなれた頃には、彼は息をするだけで精一杯になっていた。だがにじんだ視界を瞬いているうちに、ヒュトロダエウスの顔がふたたび降りてくる。  もうやめてくれ、と閉ざした唇は、下顎を押されて簡単にこじあけられた。舌に噛みつこうと躊躇して、結果的に甘噛みになると、のしかかる身体がぶるりと震えた。ふー、ふー、とヒュトロダエウスの鼻息が荒くなり、太ももにねっとりと熱いものが触れる。咥内を犯す舌が《《それ》》を連想させるかのように、ゆっくりと出入りした。同じような緩慢な動作で、腿に逸物がぬるぬると擦りつけられる。 《《最初はゆっくり、ゆっくり動かして、形をなじませるんだよ》》  ヒュトロダエウスのささやきが想起される。すでにかれのセックスというものが、肉体に刻みこまれてしまったかのように、後孔がきゅっと締まった。 「んっ……んっ……ぁ……」  銀糸をひきながら唇がはなれる。彼がとろんとした瞳で見上げると、ヒュトロダエウスは見せつけるように舌なめずりをした。ずんと腰に重いものがたまる。  これから、あのヒュトロダエウスに抱かれるのだ。本能が屈服して、雄を受け入れるように、脚がくたりと開かれてしまう。無防備な窄まりに亀頭があてがわれ、ぬるぬると粘液を擦りつけられる。 「はー……です……」彼のまなざしがハーデスを探してさまよった。  ハーデスはちらりと彼を一瞥して、触れるかどうか迷うように指をぴくりと動かしたが、結局、顔を背けた。 「……フフ、残念だったね」  ヒュトロダエウスが小さな声でささやく。 「彼に抱かれるために準備した《《ここ》》で……ワタシを受け入れてくれるかい」  くちくちと先端が入口にキスをする。 「そうしたら……ハーデスのことを忘れるくらい、気持ちよくしてあげるよ」 「ぁ……あ、ああ……っ」  ぐっ……と腰を押しつけられる。肥えた亀頭が括約筋をおしひろげ、ゆっくりと挿入されていく。先走りによって潤滑はじゅうぶんだが、ヒュトロダエウスのものは規格外だ。ハーデスのものを想定して解されていたそこには大きすぎる。はじめて侵入を許したのが、ヒュトロダエウスであるという事実から、彼は逃れられない。  はー……と堪えるようなため息が、ヒュトロダエウスから漏れる。彼を組み敷くしなやかな全身はしっとりと汗ばんで、腹筋が何度もひくついていた。ぱんぱんに腫れきった逸物には、びっしりと太い血管が浮かび上がり、びぐびぐと脈打っている。  動けないように羽交い締めにして、腰を振りたくりたいと言っておきながら、ヒュトロダエウスは決して無理に挿入しようとはしなかった。腰をすこし進めては引いて、ぬぷぬぷとじっくり慣らしながら先端を抜き差しする。 「あー……きつ……」  かれらしくもない、ぞんざいな呟きに、からだが反応してしまう。まだかるく先端を飲み込んだ程度の後孔が、甘えるようにちゅうちゅうと吸いついた。ヒュトロダエウスの眉間にぐっとしわが寄り、ほとんど反射的に腰が突き出される。 「んああ……っ」 「っ……は、……そんなに欲しかったのかい……」  彼の後孔は逸物のもっとも太いかさをも飲みこんでいた。みちみちに拡がってはいるものの、粘膜が切れた様子もなく、はじめて受け入れた雄の味をたしかめるように食んでいる。  ヒュトロダエウスの根元を締めつける術式は、射精こそ抑制するものの、あふれる先走りを阻害することはない。ぎっちりと後孔をふさいで、体液をそそぎこんでいる状態は、ほとんど彼のエーテルを犯しているようなものだ。とはいえ、出したい、という欲求が失われるわけではない。 「ん……ほら、キミのナカ……だんだんワタシの形になじんできたね」 「ひっ……う、……あ……」  腰をすこしだけ押しつけ、逸物がひだをかきわけていくのを待ち、ある程度進めば、今度は雁首が括約筋に引っかかるところまで引き抜く。  粘っこいスローピストンは、内部を慣らすためだとわかっていても、ヒュトロダエウスの存在を生々しく彼にきざみつける。挿入は少しずつ深さを増していくが、一向にすべてがおさまる気配がない。長さも太さも規格外であることは目にしているが、実際に受け入れるとなると、印象よりもよほど大きく感じた。  彼は圧迫感による浅い呼吸を吐きながら、あとどのくらいなのだろうかと、ほんのちょっとした好奇心から首を起こした。 「おや、ワタシのを咥えこんでるところが見たくなったのかい」 「——……っぁ、そんな……っ」  まだ、半分以上も露出している。絶望的な光景に彼はめまいを覚えた。からだが緊張にこわばり、冷や汗がうかぶ。まさかそれを全部いれるわけじゃないだろう、はいるわけがない。懇願するような目で見上げれば、ヒュトロダエウスはすべてわかっているように目を細めた。 「大丈夫、もうだいぶ緩んできているよ。まだすこしきついかもしれないけれど……もういいよね。ワタシも限界、なんだ……」 「……ぁ……む、むりだ、やめ、ぁっ」  上体を起こしていたヒュトロダエウスがふたたび覆いかぶさる。その動作で逸物がずぶっと奥へすすみ、彼は手足をばたつかせて逃れようとしたが、あばれる彼の脇からヒュトロダエウスの腕が差し入れられ、肩をがっしりとつかんだ。 「はー……ほら、息吐いて。ん、大丈夫だから、あー……」 「ぁ、ぁぐっ……大丈夫じゃ、な……ぁっ、ぁっ!」 「大丈夫……、はぁ……っ……」 「無理っ、それっ、以上……ぁっ……ん」 「はー、はー……はぁ……んっ……あ……腰、止まらな……あー……」  ゆるやかなピストンは、小刻みではげしい動きへと変貌していった。慣らしたり、気持ちよくさせたり、といった余裕はない。セックスというよりは、ただ自分の快楽を追い求めるだけの……本能に従うだけの交尾だ。それでも、ヒュトロダエウスの暴力的なまでに雄の形をした逸物は、前立腺を容赦なくえぐり、そこで得る悦楽をしらぬ身体をすでに作り変えかけていた。 「んっ、んっ、あっ……んっ、あっ、あっ……」  突きあげる律動にあわせて、ぬちゅぬちゅと体内をかきまぜる音と、彼の嬌声が奏でられる。最初は抑えられていた声も、息苦しくなって口を開けば、もうなし崩しに唾液をたらしながら喘ぐばかりだ。いやだ、やめてくれ、たすけて、むりだ、そんな意思を訴えていたまなざしも、とろんと虚空を見つめている。思考を放棄したのだろう。ハーデスのこともヒュトロダエウスのことも意識の外へ追い出して、与えられる快楽に没頭している。 「はぁ、はぁ、見てごらんよ、ハーデス、んっ……ワタシのが気持ちよくてしかたないって顔をしているよ……」 「……いちいち話しかけるな、だまってヤっていろ」 「それならどうして、……はぁ、出ていかないんだい」  ハーデスは言葉を詰まらせた。  閉鎖空間に外側から入れた、ということは、出ることもできるはずだ。この部屋の理に縛られていないハーデスだけなら。あるいは時間が経ったらここに戻ればいい。それなのに、なぜ恋人が親友に抱かれている姿をだまって見ているのか。 「……興奮、しているんだろう?」  ヒュトロダエウスの目は誤魔化せない。ハーデスのエーテルは燃え上がる炎のようだ。燻る熱を閉じこめて、瞳の奥に揺らめかせている。彼と身をつなげる行為を避けておきながら、彼を抱くことを切望している。おそれているのだ、その身を焦がす内なる衝動を。ハーデスはその役目をヒュトロダエウスにゆだねて、間接的に彼を犯している。  だがあまり責め立てすぎても、本当に出ていきかねない。  ハーデスから目をそらし、抱かれる快楽に喘ぐ彼を見下ろす。 「ほら、もう奥まで入りきりそうだよ……」  ぐーっと腰をつよく押し出せば、根元にはまったリングのぶんをのぞいて、すべてがぬるりと入り込む。うあ、と身体をのけぞらせた彼の首筋に舌を這わせる。 「はー……出したい……っ」  高まる興奮のままに腰を振りたくれば、額からながれる汗がしたたり落ちる。子種をためこんだ袋はもったりとふくらみ、逸物はがちがちに硬くなったまま彼の中をはげしく穿った。  下半身がとろけてしまいそうなくらい気持ちがいいのに、絶頂にいたることができない。それでも腰を動かすのは止められない。パンパンパンとはげしく腰を打ちつけながら、彼のすっかり大きくなって蜜を垂らしている性器をえぐめに擦りたてる。 「あっ! あっ、あーっ……!」 「っ……ん……締まる……っ」  歯形のついた首筋にちゅうっと吸いつき、うっ血をいくつも残して行く。あとで魔法的術式をそこに刻みこんで、自然治癒以外では消えないようにしてやろうと思った。  ——これを見るたびにキミは、ワタシに抱かれたことを思い出すね。  思い出すだけで甘勃ちしてしまうくらい、ばかになるほどよがらせて、癖になってしまったら、彼はどうするのだろう。ハーデスとセックスしても、物足りなさを覚えてしまったら。ヒュトロダエウスは仄暗い欲望にぞくっと身を震わせた。 「はぁ、ねえ……ワタシを、呼んでくれないかい」 「ぁ……ぅあ……?」  気力だけでピストンを止めて、なかをじっくりとかきまわしながら、彼の頬をたたくと、ぼんやりとした瞳が数回瞬きをして、ヒュトロダエウスを映しだした。  涼しげな微笑をうかべていた顔が、はー、はー、と荒い息を吐き、白い肌を紅潮させていることが彼にどう見えるか、そんなことは視なくたってわかる。括約筋がきゅっとヒュトロダエウスを締めつけて、たまらず「ん、」と声が漏れると、手の中の性器も脈打った。 「今はワタシがキミの恋人だと思って、……ね」  うっとりとした声音でささやく。彼の迷いに揺れたまなざしが、ハーデスを見つける前に、彼の《《いいところ》》をやんわりと突き上げた。 「っぁ……ヒュ、ヒュトロ……っ」 「……は、……いいね」  もっとそこを突いてほしいとねだるように、彼の宙ぶらりんの脚が、ヒュトロダエウスの腰にしがみついた。  もう気持ちよくなることしか頭にないって感じだ。ヒュトロダエウスは薄く笑った。前立腺をやさしくこねるように刺激してやりながら、愛らしくさえずる口にキスを落とす。 「……いくよ」  腰をしっかりとつかむと、彼は期待とおそれのないまぜになった表情で息をのんだ。  逸物の角度を彼のいいところに合わせ——。 「アッ! ひ、っ、そっ、こ、あ、あああっ!」 「フフ、そんなに気持ちいいかい」  前立腺を亀頭でぐりぐりと突き上げ、引くときには張り出た雁首でえぐってやる。あばれる身体をおさえつけ、雄としての優位性を叩きつけるように容赦なく責め立てると、彼は息を詰めて、びくっ、びくっと痙攣した。 「——っ、……ぁ、……ぉ……っ」 「あー……いいなあ、キミはたっぷり出せて……っ」  ごりっ、ごりっ、とイイところを押しつぶすたびに、とろとろとしぼりだされるようにして彼が吐精する。ここで出す快感を覚えたら、もう忘れられないはずだ。  空っぽになるまで出させてあげようと、彼の腰を抱き上げ、性器の裏側を何度も何度も押しつぶす。ひときわ強く突き上げると、びゅっと勢いよく薄い精液が飛んで、彼自身の顔を汚した。  ハーデスからの熱い視線をひしひしと感じる。そのエーテルの猛りは《《視る》》だけで火傷しそうなほどだ。そんなに彼を抱きたいのなら、抱けばいいいのだ。もっともヒュトロダエウスには彼を離してやるつもりなどなかったが。 「も……でな、……アッ……ヒュトロぉ……」 「んー……まだもう少し出ると思うなあ」  ひぐっ、と彼が鳴くのを無視して、彼の根元から先端までをしぼりあげ、ひねるように腰を動かし精嚢を刺激する。どろ……と最後の一滴が涙のようにあふれて性器を伝い落ちた。  念を入れてしばらくそれを続けていると、彼はぴんと足を伸ばして、はくはくと声もなくあえいだ。エーテルが何度もはじけている。出せないまま絶頂に至っているらしい。 「おい……やりすぎじゃないのか」 「この程度なら、何の問題もないよ」  ——癖にはなるかもしれないけれどね。  それを了承したのは他ならぬハーデスだし、癖になったとしても、その欲を満たしてあげればいい話だ。ヒュトロダエウスは嗤った。  ——彼を抱き壊してしまうのが心配なら、自分の欲望に、歯止めが効かなくなることをおそれているのなら、それ以上のことをワタシがしてみせてあげよう。そうすれば彼を犯さない理由などもうどこにもないだろう?  彼が意識を飛ばしかけたところで、ヒュトロダエウスはふたたび彼の奥まで逸物を押し込んだ。根元にはまった太い輪のせいで、それ以上は進まないが、その状態でも最奥に触れることはできる。  ちゅぷちゅぷと奥にキスをしながら、息も絶え絶えな彼の唇もたわむれのように味わう。恋人同士のセックスのように頭を抱き合って、お互いだけを目に映して。 「あとどのくらいで、これ……外れるのだろうね」  彼の手をつかみ逸物に触れさせると、感触かあるいは熱さにおどろいたのか、指が一瞬ぴくりと跳ねたが、エーテルリングを確かめるようにふにふにといじりだした。彼のエーテルが揺れている。中に出されることを期待している。 「でもこれが嵌ってる限り、キミはずっと……気持ちよくなれるね。朝から晩までここにワタシを受け入れたまま……フフ、想像したかい」 「ぁ……僕……僕は……」 「今は、ワタシの恋人だよ。違う男のことは考えないでほしいなあ……」 「あっ、あっ、あっ、ヒュ、っ、ヒュトロっ……」  彼はちらちらとハーデスを気にしていたが、ゆっくりとピストンを速めていくと、すぐに中が甘えるように吸いついてきた。さきほどよりも感度がいい。あの燃えるようなまなざしと目が合って、見られていることを意識したのだろう。ハーデスはローブを押し上げる雄の象徴も隠す気はないようだ。むしろ見せつけたにちがいない。いい傾向だ。気分を盛り上げるためにわざと煽るようなことを言ったところで、結局、彼はハーデスのものなのだ。一度たりとも彼が誰かのものになったことがないなど、それこそが、ハーデスの傲りだ。この程度のことで、束縛できるたましいであるはずがない。  縛りつけられているのは、むしろ——。 「……好きだよ」  ヒュトロダエウスは甘く切ない響きをこめてささやいた。 「……は、……んっ! んーっ……!」  なにか言いたげだった彼の唇をふさいでしまう。  嘘か真か彼にはわからないだろう。実際はそのどちらでもない。身を焦がすような激情は、ヒュトロダエウスには存在しない。ただひとつ言えるのは、彼もハーデスもかけがえのない友であり、ふたつの輝きが愛おしいということだけだ。ハーデスに対して抱く気持ちも、彼に対して抱く思いも、同じものだ。  愛し合うように舌を絡め合い、むさぼるように深くまで口付けて、中に出せないかわりに体液を飲みこませる。自分のエーテルが彼の一部となっていく、その光景が心地いい。  ヒュトロダエウスは彼に口付けたまま、ぬち、ぬち、とゆるやかに、延々と腰を動かしつづけた。ふうふうと荒い鼻息を感じながら、ただ無言で快楽に没頭する。  とろとろに濡れて、やわらかな内部は、すっかりヒュトロダエウスの形になじんで、心地よく吸いついてくる。癖になりそうなのはこちらのほうかもしれないとさえ思った。酸素が欠乏する息苦しさも、目に膜がはるような熱っぽさもたまらない。  彼はしだいに足をばたつかせたり、上にのしかかる身体を押し返そうとしたり、首を振って逃れようとしていたが、ヒュトロダエウスはそのすべてを押さえつけた。あやすように少しだけピストンを早めれば、咥内でだらりと垂れていた舌がぴんっと伸びて、腸内も甘えるように収縮する。彼の口元から飲みきれなかった唾液があふれだして、ひくっ——とひときわ大きく跳ねると、彼の全身の力が失われた。 「っはぁ……まだ寝るには早いよ」 「あっ……ひぃ……っ」  エーテル波を送り、強制的に覚醒させる。  ゆるみきった括約筋が心地よい締めつけを取り戻し、ヒュトロダエウスは「あー……最高……」と満足げにうなった。 「も……無理……んっ……ヒュトロっ……」 「はー……はー……うん、気持ちいいね……」 「違……っ、もう、や、……あっ」 「わかっているよ、……ん……ここだろう」 「あ、あ——……っ!」  彼は前立腺をえぐられて絶叫したが、掠れた声はほとんどが、ひゅうひゅうと息の漏れる音に変わってしまった。腹の奥がじいんとなって、頭が真っ白になり、目の前がちかちかと明滅する。あつい。触れ合う素肌がぬるぬると汗に滑る。  波のような絶頂にさらわれているうちに、ふたたびゆったりとした律動に戻る。純然たる性器となってしまった後孔は、ヒュトロダエウスの形を覚えて、媚を売るように甘えた。  こんなセックスを経験させられて、これからどうなってしまうのか。しかもまだ終わりではないのだ。頭がおかしくなってしまう。もう絶対に、これまでのような関係ではいられない。ヒュトロダエウスに微笑みかけられるたびに、穏やかな声で話しかけられるたびに、教えこまれた悦楽を思い出してしまう。仮面の奥の奥に秘められた雄のまなざしを、ローブの下に隠された象徴を……。 「ねえ、キミはこれから……満足できるのかな」 「っ……ぁ、ヒュトロ、……」  耳の溝をなぞるように舌が這う。思考を見透かされたかのような言葉に、全身の毛が逆立った。 「これからも、ハーデスがキミを抱いてくれなかったら、どうするんだい。  それとも、彼とのセックスでは……もう満たされないかもしれないね」  そんなことはない、という言葉が、喉に引っかかった。否定できない感情はエーテルの揺らぎとなって、ヒュトロダエウスにも、そしてハーデスにも隠すことはできない。  ——それとも、僕がこうしてヒュトロダエウスに抱かれて悦ぶことが、ハーデスの望みなのだろうか。 「……ワタシに抱かれたくなったら……いつでもおいで。キミが満足するまで抱いてあげるよ」  それさえも、ハーデスは許すのだろうか。  ヒュトロダエウスの言葉は、いくら小さなささやきであろうと、ハーデスにも聞こえているはずだ。  彼は許しをこうようにか、それとも、助けを求めようとしたのか、自分でもわからないまま、傍らのハーデスを見上げた。  前髪の向こうからのぞく黄金色の眼が、魔物のようにぎらついた気がした——、その時にはすでに、彼は激しい口づけを受けていた。ハーデスは何度も何度も角度を変えて、やわらかく膨れた唇に噛みつくように彼をむさぼった。 「フフ、やっとその気になったのかい。でも今はまだキミに返してあげないよ。そういう約束だろう?」  口の端からヒュトロダエウスの舌が割り込んだ。ぎょっとしたようにのけぞったハーデスの唇を追いかけて、じゅるりと音をたてて吸う。 「彼のエーテルのほんの一部だって、今はワタシのものだよ」艶っぽい笑みをうかべて、自身の顎を伝った唾液を指ですくいとり舐めてみせる。   「……この次は、私の番だ」  すがるように伸ばされた彼の手に指をかさねてやさしく撫でながら、ハーデスは告げた。  今までに見たことのない顔で見下ろされて息をのむ。いつも仏頂面だが、彼を見るときは、ほんの少し優しげにゆるむまなざしが、まるで獲物をみるようだ。彼自身に魂を視るほどの力はなかったが、触れ合う手のひらから、荒れ狂い混濁する魔力を感じとることはたやすかった。飲み込まれてしまいそうだ。 「次なんて考えられなくしてあげるよっ……」 「……っあ……あ!」  ハーデスに向いた意識を奪い返すように、ヒュトロダエウスが奥を突く。  同時にカチ、となにかが噛み合うような音がした。 「フフ、っ……時間みたいだ」  閉鎖空間を囲んでいた術式とともに、射精をいましめる輪にかけられた魔力が解かれていく。  ヒュトロダエウスはふたりの繋がれた手の上に、さらに自分の手を重ね、彼の脚をおもいきり持ち上げた。その状態で膝立ちになり、ほとんど真上から突く姿勢になる。結合部が丸見えになって、彼は「ひっ」と引きつったような声を漏らした。術式そのものは解除されたものの、形として嵌められたままのリングだけが露出している。  ゆっくりと、長いストロークで、腰が上下に動きだす。 「ぁ……あ、あ……あ……っ!」 「……はー……っ……すぐ、出そう……っ」  ヒュトロダエウスは絶頂を堪えるように腹筋をひくつかせて息を詰めた。半分ほど突き刺さった逸物がびくびくと脈打つ。はあっ、と止めていた呼吸を吐き出した際に、こめかみから汗が一筋ながれた。  出すなら一番奥にそそぎたいと思うのが、雄の本能だ。 「——ア……っ!」  腰を深く落とされて、彼は激しくのけぞった。エーテルリングごと挿入しようというのか、ヒュトロダエウスは興奮しきった表情で腰をぐりぐりと押しつけた。  入らない、入るわけがない! 彼は痙攣しながら自由な片手でヒュトロダエウスの肩を押し返そうとした。しかし無意味な抵抗だった。 「すこし大人しくしてくれないかい」と鬱陶しげにはらわれて、彼の手首は床に縫いつけられた。リングが括約筋を押し拡げる。射精を待ち望んで、鈴口をぱくぱくと開閉させる先端が、ぬっちゅぬっちゅと小刻みに何度も最奥にキスする。 「んっ、ああ……出る……っ」 「——っ……ぉ……!」  ず、ぷ……っとすべてが挿入された。  どくんっ……どくんっ……と逸物が何度も収縮する。子種が尿道をびゅるびゅると勢いよく通り抜けて、彼の中を満たしていく。 「あー……フフ、まだ出てる……んっ……はぁ……キミが女の子だったら、きっともう命が宿っていただろうね……」  残滓をもしぼりだすように腰を回すと、ぐぷぐぷと腹の奥で子種が波うった。彼はすっかり《《トんで》》しまっているようで、ハーデスの手を握りしめながら性器を断続的にひくつかせている。  ヒュトロダエウスは何度かエーテルを流して、彼を起こそうとしたが、ビクつくばかりで彼が意識を取り戻すことはなかった。いや、意識はあるのだ。ただ快楽によって思考回路が焼き切れているのだろう。言葉のかわりに出てくるのは、意味をなさない喘ぎ声ばかりだった。 「んっ…………」腰を浮かせようとすると、エーテルリングが括約筋に引っかかって、根元が嵌ったまま抜けなくなっていた。エーテルに分解すると、雁首にかきだされた分の白濁液がぼたぼたと垂れながら、ぐぽ、と淫猥な音をたてて逸物が抜けた。  ぽっかり空いた後孔をふさぐように、ぬちぬちと先端を擦りつけながら、彼をうつぶせにひっくり返す。 「……代われ、ヒュトロダエウス」 「あー……申し訳ないけれど、あと二回くらいさせてくれないかな……」  言いながら彼の足を開かせて、たっぷりと種付けしたナカへふたたび挿入する。この瞬間は、どうしたってため息が出る心地よさだった。  ハーデスも中に出したいのだろう、彼の手を勝手に使って性器をしごかせているが、気を紛らしている程度だ。とはいえ気を遣って早く終わらせてあげようと思うほどの余裕は、未だヒュトロダエウスにはない。あんなに我慢したのだ、たった一回だけで足りるわけがない。  結局、彼の首を吸ったり噛んだり、激しく突いたり、ねっとりと奥を突いたり、じっくり時間をかけて彼の体内を味わった。実のところ、二回目は出したことをハーデスに気づかれないように腰を動かし続けて、三度抜かずに犯した後、ようやくヒュトロダエウスは彼から身を離した。   「もういいだろう」 「……まだ出したりないんだけどなあ……ん……」  ヒュトロダエウスは名残惜しげにずぶずぶと何度かピストンしてから引き抜いた。それなら口を借りようかな、と、今度は彼の顔の上にまたがった。うつろな目をした彼の頭を抱えて、唇を逸物でこじあける。  咥内もなかなか気持ちがいい。すこし夢中になって喉奥をがつがつと突いていると、突然、彼がびぐんっと跳ね起きた。 「っ……ンっ……ンー……っ!」 「おや……分かるのかい」  ちょうどハーデスが、彼の中に挿入したところだった。反応といえば痙攣くらいだった彼が、朦朧とした意識ながらも確実に歓喜の声をあげたのだ。  ヒュトロダエウスを受け入れたことで、だいぶ内部はゆるんでいたが、彼は感極まったように何度も声を上げ、ハーデスを心地よく締めつけているようだ。上擦った呼吸と、ときおり混じるうめき声がその快楽を伝えてくる。ヒュトロダエウスは早くも彼のナカが恋しくなった。ハーデスの精が彼のエーテルと結合したとき、その欲求は媚薬をもう一瓶飲み干したかのように、歯止めがきかなくなった。一滴も出なくなってもおさまらないほどに。 「ほら、ワタシの言ったとおりだったろう」  そこまでしたって、彼は数日後にけろりと体力面も精神面も正常そのものに戻り、また旅に出てしまったのだ。  彼がいなくなったことを知ったハーデスは、ほっとしたような、呆れ返ったような、あるいは苦々しげな、とにかく複雑な表情をして、ヒュトロダエウスに報告したのだった。 「いやあ、さすがのワタシも、キミが冥界の力を纏った状態で彼を犯すとは思わなかったし、すこしまずいんじゃないかとも思ったけれど、どうも杞憂だったみたいだね」  ハーデスは何も言葉が出ないようで、ただただ深いため息を吐いた。 「置いていかれた者同士、《《仲良く》》するかい?」 「…………ハァ?」 「冗談だよ」  ——はー……ヤりたいなあ……。  頭に浮かんだ即物的な欲求を読み取られたらしく、ハーデスが仮面の奥で眉をひそめる気配がしたが、気付かないふりをした。  ヒュトロダエウスは彼の創造物暴走事件に巻き込まれた被害者であり、それでもなお死ぬほど我慢していたのに、その箍を外したのは他ならぬハーデスなのだ。そしてさんざん彼を容赦なく抱いたが、結局、抜け出せなくなったのはハーデスとヒュトロダエウスのほうだった。こわい男だ。海向こうでも、その魅力的なたましいでいろんな人をたぶらかしているのだろうと、容易に想像できる。 「次に彼が帰ってきたら、どっちが先に抱こうか」 「……お前な。まあ、あいつに選ばせればいいんじゃないか」 「そんなのキミが先になるに決まってるじゃないか。構わないけれどね」  こうなれば、もう半分意地のようなものだ。  少しくらい彼の興味を冒険から引きはがして、自分たちのほうに向けようとしたっていいだろう。 (あんなにも耐えた日々が無駄だったとは……その上満足したら、さっさと消えるとはな。覚えていろ、次はあれだけでは済まさんぞ……) (もっと強力なイデアを創造するべきかな。彼のバイタリティはとんでもないものがあるし、いっそ禁制のイデアでも大丈夫かもしれない……うん、一度使ってみたかったんだよね)  かくしてふたりの共闘精神がここに結ばれた。