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usus est magister optimus.

 ハーデスの帰宅は遅くなりがちだ。あのまじめな友人は、今日も厭だ厭だといいながら責務を投げ出せずにいるのだろう。  ヒュトロダエウスは股座に顔をうずめる彼の頭をなでながら、今日は何時頃になるかなあ、と遠くを視つめた。友人のエーテルは議事堂にへばりついたように動かなかった。手の抜き方を心得ている創造物管理局局長は、エメトセルクの座についた彼よりもはやく帰ることが多かった。ハーデスの恋人である彼は、海向こうへいって時にはなかなか帰ってこないこともあったが、帰る場所はいつもここだった。かれらがいるときのヒュトロダエウスの居場所もここにあった。  今となっては部屋の主よりも過ごしている時間がながいふたりは、生まれたままの姿になって淫猥なひとときを過ごしていた。ハーデスの恋人である彼は、いまはその友人であるヒュトロダエウスの逸物を懸命になめしゃぶっている。 「ん、ふ、ヒュトロ、どうだい……?」  咥えこんでいた口を離し、根元から裏筋までを舐めあげる。そろそろ顎がつかれてきた頃だった。  ヒュトロダエウスのものは平常時でさえずっしりとおもく、かれの咥内はいっぱいになってしまう。そして血液が集中すればするほどに、口蓋をえぐるようにぐんと力強くたちあがり、喉をむりやり押しひろげなければ、根元まで咥えることもできなくなってしまう。顎関節を全開させて奥まで迎えいれるのは、最初とくらべて慣れてきたほうだったが、頭を上下させて唇と喉でしごくまではともかく、その状態で舌のうごきにまで気を配るのは至難の業だった。 「うーん……」  ヒュトロダエウスは曖昧に微笑んだ。やはりかれの口淫だけで絶頂にいたるのは難しかった。いつも途中までは昂ぶるものの、結局、出すときは自分でかれの喉を突くか、自分でしごくかのどちらかだった。 「顎がつかれてきたなら、先っぽだけを舐めて、波がひかないように手で擦っていてほしいな」 「ん……ほんなはんひはい?」  もごもごと亀頭を咥えながら彼は言った。敏感な雁首をなんども唇が往復する。口に含めない部分は言われたとおりに彼の手がにぎって刺激した。しかし相変わらず舌技に関してはおざなりなままだった。 「まだ、ハーデスを悦ばせることはできないね」  その名前をだすと彼の反応はあきらかに変わる。そもそもこうして彼がヒュトロダエウスに奉仕しているのも、恋人に対する練習に他ならない。  ——キミに舐められて、気持ちよくなってるハーデスを見たくないかい。ワタシはキミにしてもらえて気持ちよくなれるし、ハーデスもうまくなったキミで気持ちよくなるし、キミはハーデスが気持ちよくなってるのが見られて、みんな幸せだね——と耳元でささやきかければ、彼はひときわ熱心になった。 「もっと、舌をつかって。そう……吸い上げたりひねるように頭を動かして……」 「ん……む、……は、難しいなあ……」 「やっぱり体で覚えるのがいちばん早いかな」 「からだで、って」 「ワタシがキミのを舐めてお手本をみせるよ」  彼は、え、と驚いたような声をあげた。そしてその膝頭がすこしだけ擦りあわされたのをヒュトロダエウスは見逃さなかった。 「あ、待っ」  ぼふっとシーツが波うった。後ずさろうとした足首がつかまれて体勢を崩したのだ。そのままぱっかりと両足をひらかれて、その間にあるものがピンとたちあがっているのがあらわになった。 「なにを恥ずかしがっているんだい。いつものことじゃないか」  にやにやと微笑をうかべながら、ヒュトロダエウスは彼のむきだしになった性器を指先ではじいた。んっ、と彼の声が期待の蜜とともに漏れると、汚れた指をこれみよがしに擦りあわせ、糸がひく様子を見せつける。  彼ははあはあと息を荒げて、その先の期待にごくりと喉をならした。  ヒュトロダエウスは——なぜかはわからないが——とてつもなく上手いのだ。手でするのも、口でするのも……中のイイところを突くのも。彼の身体はその快感をしっかりと覚えていて、思い起こすだけでたまらなく発情してしまう。 「してほしいときのお願いの仕方、……教えただろう?」 「ん…………」  そして忘れられない悦楽をきざむのは、服従心そのものだった。  広げられた足のつまさきが羞恥にまるまって、白いシーツにシワが寄る。先端からぷくりとあふれて次から次へ垂れおちる粘液は、陰嚢と会陰をとおり、窄まりの表面を潤しながらそのシーツに染みをつくるのだろう。  彼はおそるおそる手をのばして、自分の性器をつまんだ。まだ半分ほどが包皮に隠れている亀頭をつまんで、ゆっくりと剥きおろす。自ら露出させた真っ赤にはれた先端の、ひくひくと開閉する尿道口をヒュトロダエウスのほうへ向ける。 「な、舐めて……ほしい……」 「……まあ、及第点かな」  少なくともハーデスの理性は堕ちるだろう。  彼のエーテルを快楽でとろとろにして食べごろにしたり、気分がより盛り上がるように仕込んでおくのは、友人にたいする奉仕のひとつである。そしてハーデスに抱かれてまざりあった彼のエーテルを味わうのは、ヒュトロダエウスだけに許された特権だった。 「じゃあ、キミが上にまたがって、ワタシのするように舐めてみようか」 「またが……えっ?」 「うん。キミのを気持ちよくしてあげるから、同じようにしてごらん」  さあ、お尻をこっち側へ向けてとうながす。  いまいちぴんときていないながらも、彼はヒュトロダエウスの言うとおりにした。横たわった顔の上をまたぐと、すべてが晒けだされていることを否応なく意識し、またひとつ蜜がしたたる。目の前には逸物が、そしてそそりたった自らの性器はふうと裏筋に息を吹かれて、さらなる涎を垂らした。彼は同じようにしなければならないということを思い出して、目の前の逸物に息をふきかけた。 「っ……そう、その調子だよ」  れろ、と生ぬるい感触が裏筋から付け根までを舐めあげた。彼はひくんと身体を痙攣させてから、ヒュトロダエウスのものを腹につくまで押さえて、舌先で同じように舐めた。すると硬度がまして血管が浮きでるのが目に見えるほどだった。刺激としては咥えているときより少ないはずなのだが、継続的な接触がない場合は、より与えられる触感に敏感になることを彼は学んだ。  ふたりはしばらく舌だけでたがいのものを舐めあったが、もどかしさに焦れたのはやはり彼が先だった。腰をうごかして、先端をヒュトロダエウスの唇に触れさせる。同じことを、とぼんやりとした頭で思考し、目の前の逸物に口づける。塩からい蜜が彼の唇を濡らした。 「もう我慢できないのかい」  ヒュトロダエウスはぶらさがった性器をつかみ、角度を調整した。もう片方の手指で、とめどなく粘液をあふれさせる尿道口をくぱっとひろげると、ぁ、と逸物にふれている唇がふるえた。 「ッん——!」  伸びた舌先が、あふれる蜜をすするように粘膜をぐりぐりとこじあける。  くすぐったさとぴりりとした刺激がいりまじった感覚に、性器がひくひくと跳ねたが、根本をしっかりと固定されていてぬるついた舌先から逃れることはできなかった。尿道が拡張されてしまうのでは、と不安が脳裏をよぎったが、それでもあらがうことのできない悦楽に、彼はただ身もだえるばかりだった。  へびのように動く舌先にもっと奥をくすぐってほしいと、素直な性器がとぷりと粘液が分泌するのを、ヒュトロダエウスは何度もえぐるように舐めとって「フフ、きりがないね」と嗤った。 「……どうしたんだい、ほら、キミもワタシを気持ちよくしておくれよ」  ぼーっと快感にひたっていた彼の唇を逸物が突く。  するとほとんど意思のこもっていない舌が、ぺろぺろと毛づくろいでもするように舐めはじめたが、そんな児戯のような愛撫にヒュトロダエウスは甘い顔をしなかった。 「がんばらないと続きはなしだよ」 「あ、いや、だ……っ」  彼は身を起こそうとしたヒュトロダエウスにあわててしがみついた。この状態でほうりだされてしまったら、ハーデスが帰ってくるまでは完全にお預けだ。あるいはお仕置きと称して達することをゆるされず、延々と責苦を受けつづけるはめになるかもしれなかった。しかしそんな想像にさえ彼の肌はぞくりと粟立った。 「……お仕置きされたくて、わざとやっているのかな?」  彼の内心を見透かしたような言葉の息が性器にふりかかる。ちがう、とは言いきれなかった。肉欲に支配されている自分を恥ずかしいと思いながらも、罪の味はあまく魅力的だった。エーテルを視る目をもたない彼は、それ以上に自分がどれほど蠱惑的なかがやきをまとっているのかを知るすべはなかったが、快楽に堕ちていくほどヒュトロダエウスの目が満足そうに微笑むのと、直接的な快楽にそれほど興味をもたないハーデスさえ、その気になってしまうということはわかっていた。  だからこそ、溺れてしまう。  彼はヒュトロダエウスの逸物にちゅうと吸いついた。両手で抱えるように持ち、同じように尿道口を開かせて、舌先でちろりと舐めあげる。するといい子だねと褒美でもあたえるように、ヒュトロダエウスの舌も彼の尿道口をくすぐった。 「ぁ、っは……ん、む……」  逸物の尿道口をちろちろと舐めていると、塩辛さが舌につたわった。ヒュトロダエウスは彼とちがって涼しい顔をしていたが、まちがいなく快楽を感じているのだ。そう思えば彼は夢中になって舌を動かした。ほとんど先端を咥えこみながら尿道口をこじあけ、奥からあふれてくる蜜を待ちきれないように舐めとると、彼のものを舐めている舌先が震えて、はあ、と詰めた息が吐き出されるのが伝わった。 「っぅ、ん、ふーっ、んーっ……!」  仕返し、とばかりにヒュトロダエウスが彼のものをすべて飲みこんだ。上にまたがっている彼の根元を輪になった指がしっかりとおさえて、器用に頭を振って口淫する。雁首にまきついた舌がちゅくちゅくと音を立てながら擦りあげる。唇と舌とで二重にしごかれているような感覚に、シーツに立てられた彼の膝ががくがくと震えた。舌は包皮の隙間にもはいりこみ、敏感な箇所をあますことなく刺激していく。  もはや舌技を教わるどころではなかった。彼は姿勢を維持するのが限界だった。  必死にまねをしようとヒュトロダエウスのものを咥えるも、息をするだけでいっぱいいっぱいだった。責め立てられ、せりあがってくる絶頂感に脳がとろけて、なにも考えられなくなってしまう。 「……んっ、んっ、んっ……う!」  イク、と彼の全身が硬直した瞬間、ちゅぽ、と音をたてて性器がヒュトロダエウスの口から抜ける。 「あっ……あっ……い、いかせてっ……」  急速に引いていく射精感に、彼は切なげな声をあげた。腰を深く落としてどうにかヒュトロダエウスの口に先端を押しつけ、逃した絶頂を追いかける。 「ぁっ……はぁ……っ」  唇は存外抵抗なくこじあけられ、彼は制止されないうちにと、性急な腰使いで咥内に出し入れする。  目を細めてされるがままでいたヒュトロダエウスは、好き勝手に抽送する性器の裏側を、舌先で何度か舐めあげてやった。  引いたばかりの射精感はすぐにこみあげてきて、性器はひくひくと震え、全体がじんとした痺れにおそわれる。 「は、ぁ、い、いく……っ」  今度ばかりは吐精できた、と彼はおもった。しかし恍惚と射精の快感に身をまかせようとしたとき、根元をおさえていたヒュトロダエウスの指の輪がきゅうと締めあがった。 「あー……っ! っひゅと、ろ…………あっ……あぁっ……」 「……しかたないなあ」  物理的に射精をせきとめられた彼は、断続的にビクつきながら激しく身をよじった。根元を締めあげる指が離れたものの、拘束されている感触は残ったままだった。どうして、と彼が自分の性器をのぞきこむと、その根元には魔法による拘束具が創造されていた。  ヒュトロダエウスは、根元を締めたまま達せず過敏になった性器にしゃぶりついた。 「あっ、あっ、いっ、ひっ!」  がちがちに硬くなり、痙攣を繰りかえして暴れる性器を、その真っ赤に腫れ上がった亀頭を、容赦のない口淫が襲う。せきとめられた精液を吸いあげるようにじゅるじゅると啜りながら、唇がぬるぬると何度も雁首を往復し、舌先が裏筋や先端をぐりぐりとなぶりつくした。 「っ——、ッ……い……っ!」  声の出し方も、呼吸の仕方もわすれた口が、はくはくと酸素をもとめた。決して出すことはできないのに、まるで連続した絶頂に襲われているかのようだった。異なるのは熱が高まったまま冷めないということだった。精液の通り道がふさがれて逆流しているわけではない。この拘束具には射精という生理反射そのものを禁じる術式がきざまれていたのだ。 「ゆ、るじ、で……っ、ヒュ……っ」  ほとんど泣きながら懇願してやっと、ヒュトロダエウスは彼の性器から口を離した。露出されたそれはひとまわりほど大きく膨らんだようにも見え、びく、びく、と達している最中のように、何度も跳ねていた。 「許すもなにも……お仕置きしてほしかったんだろう?  イけないのがわかっててイこうとするなんて、フフ……キミは本当に気持ちいいことがすきだね。  ——それともまさか、あのままイカせてもらえるとでも思ったのかい……?」  ヒュトロダエウスは震える性器をいたずらにいじくりまわしながら、そんなはずはないよねえ、と笑った。その瞳にはすべてが映っているはずだというのに、そう意地悪く問いかけるのだ。  射精を管理されていて、許しがでるまで出すことができないのをはじめから頭ではわかっていても、身体を制御することは困難だった。せめて、と彼は口をひらく。 「は、……ひ、……う、うまくできたら、イかせてくれるかい……?」 「これはあくまで練習であって、キミが気持ちよくなるためじゃないんだけれどなあ。ハーデスにヨくなってほしいんだろう?」 「で、でも……こんな、たえられな……」 「うーん。じゃあ……ワタシをイかせることができたら、ハーデスが帰ってくる前に一回出させてあげるよ」  彼は必死になってうなずいた。  冷静にかんがえれば分が悪すぎる条件だったが、絶頂を逃してぱんぱんに膨れあがった性器の感覚に支配された脳は、ほんのわずかな可能性にもすがらざるを得なくなっていた。  大きく息をすってから、目の前の逸物をふかく咥えこむ。できるかぎり真似をしようと、唇で扱きあげながら舌を巻きつけようとする——しかし、それにはヒュトロダエウスのものは大きすぎた。しかし張り出た雁首をごしごしと舌でこすると、塩辛さが咥内にひろがって、どくんと逸物が脈うった。 「っはあ……なかなか、上手になってきたね」 「んっ……んっ……」  息を止めて喉の奥で亀頭をみがく。それでもヒュトロダエウスのものをすべて口の中におさめることはできなかった。後頭部をおさえられ、無理やりこじあけられでもしない限りは。口の中に出されるときはいつも、喉でセックスをするようにずこずこと突かれてようやく、たっぷりとした子種が吐き出されるのだ。今は最奥まで受け入れられないかわりに、舌や指をつかって快感を高めていくしかなかった。  顎関節のきしむような鈍痛と、舌根がつりそうな感覚に耐え、呼吸が苦しいときは両手を使ってぬるぬると全体をしごき、尿道口を舌先でくすぐってまた飲みこむ。そんな動きを繰り返していると、逸物がどんどん硬くなり、時たま揉むように撫でていた睾丸が、きゅっと張り詰めはじめていた。  イきそうなのだ。彼は口淫に集中した。はあ、はあ、とヒュトロダエウスの荒い息遣いが、彼の股座を曇らせていた。 (あのヒュトロが、僕の口と舌で、気持ちよく……なってる)  背筋をぞくっとした興奮がはしる。  だがヒュトロダエウスは熱のこもった目で、頭上をゆらゆらと揺れる性器を見上げていた。そして彼の努力をあざわらうかのように、その先端をぺろりと舐めた。 「っひ、……!」  それだけで、彼の口技を止めるにはじゅうぶんだった。そこに心臓があるかのようにどくどくと脈打つ性器は、ほんのわずかな刺激でも神経を電流が駆けめぐるような快感をもたらした。とうとう手足に力がはいらなくなった彼は、ヒュトロダエウスの身体の上にへたりこんで、性器をひくつかせながら、ただはあはあと息を吐いた。  ヒュトロダエウス自身もあと少しで出そうだというところだったが、はじめから彼を解放する気はなかったのだ。ハーデスは、このとろけたエーテルの彼にたまらなくなるだろう——けれども口淫がここまで上手くなるのは、予想以上だったと言わざるを得なかった。さすがは彼だ、とヒュトロダエウスは微笑んだ。 「ハーデスが喜ぶよ」  彼の待ち焦がれていた気配が近づいてきていた。 「今度はいったい何をしたんだ?」  ハーデスの呆れかえった声はなじみ深すぎるものだったが、親友であるヒュトロダエウスの前では、本音をかくす役には立たなかった。 「はぁ……です……ぁ、は……」  ……現にこうして、ハーデスの股座に頬をすりよせている彼に欲情しているのは、エーテル波形を視れば、いや、いっそ視なくても明らかだ。  彼がローブ越しのふくらみへ鼻を押しつけて、すうーっと深くにおいを嗅ぐと、ハーデスはかっと顔を熱くして、情欲にとりつかれた恋人を引き剥がそうとしたが、彼は腰に抱きついて意地でもはなれなかった。さらにはいやいやするようにかぶりを振ったものだから、熱をもちはじめた柔らかなふくらみが刺激されて、布地からくっきりと浮き出はじめるのに時間はかからなかった。 「キミを喜ばせたいんだって、ね」  いたずらっぽく笑ったヒュトロダエウスは、ビンビンにそそり立った逸物を隠しもせず、ベッドに横たわったまま言った。太い血管が唾液にぬらついて、てらてらと艶めいていた。 「は、です……う、い、きたい……いかせて……」 「おねだりの練習もしただろう? おいで」  ヒュトロダエウスにうながされて、彼はいちどハーデスの股間から離れると、ベッドの上に乗りあげた。身を起こした恋人の親友にからだを委ね、羞恥という概念をどこかへ置いてきてしまったように、ぱかりと両膝をひろげて、熟れた果実のような中心部を見せつける。  ハーデスの喉仏があからさまに上下した。  拘束具にとらわれた彼の性器は、いつもより肥大化しており、ふくらんだ亀頭は包皮をおしのけ、完全に露出していた。 「ハーデス、っ、こ、これ、外してっ……」  断続的にふるえる性器の根元、自由な射精をはばむ拘束具を指さす。 「……これは」 「っ……ぁ」  精管をしめる輪にハーデスの指がふれる。そのわずかな振動にも、彼は小さなエクスタシーに達したように喉をのけぞらせた。  ヒュトロダエウスの創りあげた魔術構成を確認したハーデスは、その場で頭をかかえたくなった。リングには射精を抑制する術式だけではなく、ご丁寧にも、彼が奉仕をして相手が射精するまで解けないという論理がきざまれていた。  むろん魔法の才にめぐまれたハーデスにとって、無理やりにでも解くことは不可能ではなかったが——うろたえる友の様子を、ヒュトロダエウスがにやにやとしながら眺めていた——こいつがそれをだまって見ているわけがないと確信する。 「いつものようにすると解けないからね」  いつものように、とはすなわち彼の頭を固定し口を使うセックススタイル、要するにイラマチオでは魔法は解けないということだった。 「それ、はやく出してあげたほうがいいんじゃないかな……?」  ローブを押し上げている怒張を指摘すると、ハーデスはため息をついて仮面を外した。ぎらぎらとした欲望を秘めた瞳があらわれて、そのまなざしに射抜かれた彼が、ヒュトロダエウスの腕の中でひくんと震えた。  三人で行為にふけるようになったばかりの頃は、ハーデスはもっと遠慮がちで、肉欲のあり方についてぐるぐると考えてばかりだったし、彼は彼でそんな恋人のまじめな気質から、ひとであれば誰もが当たり前に持つはずの欲求を恥じて、抑圧しつづけていた。  しかし最近はヒュトロダエウスの努力と調教の甲斐あって、ハーデスはあまり深く考えすぎることをやめ、単純に行為に没頭するたのしみを覚えはじめていて、彼もハーデスが喜ぶほど自分の欲求に素直になれた。  愛する人と肌をあわせ、快楽を共有する、そこに何の理由が必要だというのだろう? 「、ん……」  彼の汗で額にはりついた髪を、ハーデスの指がやさしくかきあげる。ながれるように顎に手がそえられて、彼のとろけた顔が持ち上がった。  儀式的な決まりごとのように唇がふれあう。外の清涼な空気とまざった、ハーデスのにおいが彼の鼻腔を満たした。ヒュトロダエウスは、ハーデスのかたむいた後頭部を抱いて、口づけるふたりをまるごとその腕の中におさめた。 「はっ……んっ……」  ハーデスの舌が唇の割れ目をこじあける。咥内には神経がはりめぐらされていて、体液を通じた遺伝子の交換は、ある種のセックスに近い。  ちゅ……くちゅ……と控えめな音をたてながら、どろどろに融解したエーテルが貪られていくのを、ヒュトロダエウスはうっとりとした目で見つめた。  舌を甘く吸われると、彼はじいんとした痺れを感じた。まるで性器を舐められているかのようだった(下でビクビクと跳ねている《《本物》》を、同じように扱われたとすれば、むきだしの神経に触れられるがごとく、苦痛と紙一重の快楽がもたらされるのだろうが)。  けれどその分、他の神経が敏感になっていて、あらゆる肌や粘膜が、達する間際の性器にちかい快感をもたらした。  絶頂に達せないむずむずとした焦燥をためこみながら、それでも彼はさわってほしいだとか、はやく舐めさせてほしいだとか、解放にまつわる要求を表に出すことはなかった。しかしもじもじと揺れる腰は、あきらかにはやく出したくてたまらないと言っていた。  結果的に焦らしている形になっているのは、たまたまなのか、それともわざとなのか。  ヒュトロダエウスは、彼の顎を垂れる、どちらともしれぬ唾液を舐めあげた。 「アッ……」  びくんと跳ねた様子にハーデスの瞼がうすく開いた。まつげの奥からのぞく瞳を見て確信する。キミってワタシよりたちが悪いかもね。そんなことを思いながら、ヒュトロダエウスは彼らの重なりあった唇の端に舌を這わせた。 「ハーデス……」  ヒュトロダエウスのかすれた声が友人を誘う。  ぴったりとくっついていた唇が離れた。ふたり分のエーテルをまとった舌が、ヒュトロダエウスの奥へと連れ込まれた。 「ぁ……」  寵愛を横から奪われた彼は、恋人とその親友の交わりを、指をくわえて見ているしかなかった。  それまでの口づけなど戯れにすぎないような、激しく燃えるようなキスで、ヒュトロダエウスは彼らのまじりあったエーテルを喰らう。ハーデスもまた、友人に飲みこませるように、上から深く口づけて、口内にためこんだ甘い体液をそそぎこんだ。  ヒュトロダエウスは、ごく、と音を立ててふたりの体液を嚥下した。横目で物欲しげな目線を感じとって、口の端でわらってから、抱えていた頭部を解放する。  ふたりの唇からだらんと垂れ下がった糸を、彼がすくうように舐めると、今度はその舌がヒュトロダエウスによって誘われた。強めに吸われて、舌の根にぴりっとした刺激が走る。そのまま唇でしごくように前後に擦られて、彼の性器が激しく跳ねた。 「んっ——んぅ、……っ」  ぐい、と首に向きをうしろにひねられて、苦しげな声があがった。  突き出した舌をのみこむように、今度はしっかりと唇をふさぐ。ヒュトロダエウスの長い舌が奥までねぶるように差し込まれて、咽喉にちかい口蓋を舌先でくすぐった。喰われるようなキスに、なすすべもなく唾液がだらだらと滴る。  ねっとりとしたキスを続けるふたりを見ながら、ハーデスは漆黒の衣を引き裂くようにエーテルへ分解した。下着のなかでは苦しげにおさえられた物がくっきりと浮かび上がっていた。ヒュトロダエウスがキスをしながら小さく笑った。  それが性急な手つきで剥ぎ取られる前に、キスをやめて彼の頭の向きをもどしてやる。 「はぁ、はぁ……は、……です……」  ハーデスは見せつけるように、ゆっくりと下着をずらした。頭髪よりやや濃い色をした下生えがあらわれ、そして、下着に引っかかっていた逸物がぼろんと勢いよく飛び出た。反動でゆらゆらと揺れる陰茎を、彼の舌が無意識に追いかける。さらに布地が引き下げられれば、彼の欲しがる子種がたっぷりと詰まっているであろう睾丸と、それを包みこむ陰嚢がむきだしになる。  ハーデスは片足をあげて下着を引き抜き、そのままベッドに乗り上がった。もう片足に引っかかった布切れと化した下着は、振り払うように粗雑に脱ぎ捨てられた。 「あーあ……今のキミが《《エメトセルク》》だとは誰も思わないだろうね」 「……お前のせいだろう」  揶揄するような親友の口ぶりに、ハーデスは片眉を吊り上げた。まじめな性根と似つかわしくない、血管をばきばきに浮き上がらせた凶悪な逸物の先端を、彼の唇に押しつける。 「んっむ……っ‼︎」  彼の口はハーデスを招こうとしたが、それを上回るせわしなさで腰が突き出されたために、彼はヒュトロダエウスごと後ろに倒れるはめになった。 (やりすぎたかな?)  のんきな思考で彼の下から這い出たヒュトロダエウスは、自分のものをしごきながら、顔面に乗り上げて逸物を突っ込むハーデスと、それを感じ入った表情で受け入れる彼を眺めた。 「動いたらいけないよ、ハーデス。彼をイカせる気がないのなら、それでもいいんだけど……」  友の臀部はきゅっと締まっていて、動きだしそうにしているのが手に取るようにわかった。ハーデスは図星を突かれたような顔をして、はあ……と深く息を吐き出した。  いまにも涎を垂らして腰を振りたくりそうな雄の顔に、彼の瞳は魅入られたように釘付けだ。 「ん……んむっ……ふっ……」  やりにくい姿勢ながらも習った舌技をハーデスに披露する。とはいえより深く感じる箇所はひとによって違うものだ。ただ先端をなぶられるのは、ヒュトロダエウスと同様に性感を刺激されるようで、彼の舌がちろちろと尿道口を舐めると、塩味があふれて、ハーデスの眉根もすこし寄った。  恋人の弱いところをまったく知らないわけではない彼が、一番よく知っているのが、ハーデスは《《奥》》が好きだということだ。喉の奥や、体内……結腸の壁なんかにこつこつとキスをして、隙間もないほどつながることに執着している。しかしこの体勢では、恋人のものを深く受け入れようとしても、どうにもしようがなかった。頭を持ち上げて飲みこもうとしても、角度的に無理がある。吐き出すこともできず、飲みこみきることもできず、目で訴えても伝わらない。ぺちぺちとハーデスの太ももを叩くと、ますます体重をかけられて、状況は悪化した。 「んぅ、ぐ……うっ……」  男が助けを求めるように、今度はヒュトロダエウスに目を向けると、彼はにっこりと微笑んだ。  ああ、すべてわかっていて何も言わないのだ。  ハーデスは、視線がそらされたことが気に入らなかったのか、それともいい加減に我慢がきかなくなってきたのか、ずん、と腰をひとつ落とした。 「ッ——!」  ひくっ……ひくっ……と体が痙攣する。  呼吸をさまたげられて、彼は目を白黒とさせながらもがいた。意識をつかさどるエーテルがすうっと薄くなる前に、ハーデスは少しだけ腰を引いた。嘔吐きながらゲホゲホとせきこむ彼を見つめる目に、欲情の火が燃えさかっている。  彼は多少雑に扱われても、それがむしろ抑圧の枷を解きはなつ刺激となるのか、一層みだらに感じいるのだが、ハーデスにそうやって欲望をぶつけられるのは格別らしい。陶酔したようにきらめく魔力の流れは、それを視る彼らにとっても格別の輝きだった。  ヒュトロダエウスは、彼の無防備な下半身、真っ赤に腫れ上がった性器に顔をよせ、根元から先端にかけてねっとりと舐めあげた。 「んーっ……!」  くん、と腰が浮き上がって、そしてシーツにぼふりと落ちる。  しばらく接触がないまま、恋人のものを咥えこむ喜びで忘れかけていた欲求を、その刺激によってありありと思い出したらしい。  彼の足がシーツを何度もすべり、腰は虚空を突くように浮き上がった。ぼうっとしていた舌技も解放への欲求から激しくなったようで、ハーデスが小さく呻いたのを、ヒュトロダエウスは聞き逃さなかった。 「ほら、もっと頑張らないとね」  陰嚢のしわをなぞるように舌先でくすぐり、皮を食んで軽くひっぱり、もちもちとした感触を愉しむ。絶頂につながるような性感帯ではないものの、それが今の彼には心地よく、頑張らないと、という言葉とは裏腹に、やんわりとした甘い快感にぼーっとしてしまう。  かれら三人とも来たる頂きにのぼりつめていない中、もっとも先に限界がおとずれたのはハーデスだった。  彼の頭を抱えるようにして体重をかけていたのを、背を伸ばして口から逸物を引きぬく。  そして、はっ、はっ、と喘ぐように呼吸する彼をシーツに座らせるように抱きおこす。 「ん、んむ——ぅんっ……!」  呼吸を整えきる前に、だらしなく開いた口元を逸物がふたたびこじあける。膝立ちになって自由に腰を動かしやすくなったハーデスは、さっそく喉の奥をめがけて腰をうちつけた。 「んッ——! んっ……んっ……っ!」 「おやおや。彼を置いてキミだけイクつもりかい?」 「ハァ、ハァ、お前のように、するのが、こいつには、っいいんだろう……」    ハーデスの盛り上がった亀頭が、ちゅこちゅこと咽喉のせまい入口を犯す。 「今は、キミがそうしたいだけじゃないかな」  それにハーデスの言い分は正確ではない。  ハーデスのような男が、本能をむきだしにして彼を求める、その姿こそが彼の情欲をもっとも高める媚薬なのだ。  ヒュトロダエウスは、恋のスパイスにかなうはずもないし、勝とうとも思ってはいなかった。ふたりがもっと深くまでつながることこそが悦びだった。もちろん、そうして編み上げた至高のエーテルを味わうことも愉しみのひとつではあったが。 「っ、……出すぞ」  そう宣言したのは理性によるものか、それとも、絶頂の許されぬ彼に対する嗜虐の片鱗か。  いつものように深奥めがけて逸物を突きたて、嚥下と嘔吐反射ではげしくうねる粘膜のなか、締められた亀頭が膨張する。 「っ……っ……ッ……!」  粘性のある白濁液は、食道へ直接吐き出されたとしても、なだらかに流れ込んでいくことはない。どろどろと濃い子種はすぐにあふれて、彼の頬が少しふくらんだ。生々しいにおいが鼻を抜けて、彼は痙攣した。自由に欲を解放する雄の象徴をあじわいながら、自らの性器からもびゅくびゅくと精液が噴き出す——幻覚に満たされた。  彼自身の奉仕によるものではない吐精は、当然ながら解呪の条件には当てはまらない。イったつもりになってエーテルを弾けさせている彼の、びくんびくんと跳ねている腰を、ヒュトロダエウスが持ち上げる。  拘束具は射精を禁じているだけで、性器の先端からはとめどなく透明な粘液があふれ、尻の間をつたってシーツにまるい大きな染みを広げていた。その道筋の最後にある、てらてらと濡れた窄まりに、限界まで昂ぶった逸物の切っ先がぬるぬるとあてがわれる。 「っ……はぁ……」  谷間にはさむようにくちくちと何度も擦りつけていると、やがて先端が引っかかり、ぐにゅりと肉を押し拡げる。  前方でゆるやかに腰を動かしていたハーデスが、萎んだ性器をひきぬいて身を退けると、ヒュトロダエウスは倒れこむようにして食い込ませた先端を突き出した。 「ぁー……う……」  彼は意識を朦朧とさせながら、体内にもぐりこむ圧迫感にうめいた。 「イかせてもらえなくて残念だったねえ。いや、キミの頑張りが足りなかったのかな」  じっくりとなじませるように、長いストロークでゆるやかに逸物を抽送しながら、意識へ直接語りかけるように耳元へささやく。 「おまえの教え方が悪かったんじゃないのか?」  ハーデスが口の端をつりあげて言うと、ヒュトロダエウスは「おかしいな。さっきはイかされかけたんだけれど」と微笑みながら肩をすくめた。 「ぁっ……あ……い、イきたい……」 「キミならこっちでいくらでもイけるだろう?」  性器の裏側付近——前立腺を太い亀頭がぐにぐにと圧迫感すると、彼は声もなく全身をびくつかせた。前で達することができない分、ドライでイきやすくなっているらしい。ヒュトロダエウスはあまり腰を動かさず、彼のいいところに当たるよう逸物を固定して、悦楽にトんで降りてこられない彼の様子をたのしんだ。 「っ……かっ、は……あ、っ……あっ……あっ……」  舌を突き出して悶える彼が、シーツの上をさまようように手を伸ばした。ハーデスを探しているのだ。 「どうした」  気持ちよすぎて前後不覚になったときにみせるいつもの仕草だった。ハーデスは彼の手をにぎって優しく問いかけた。ぬくもりをにぎり返した彼は、緊張の色をみせていたエーテルをとろりと緩ませて、快楽に酔いしれるように身をゆだねた。まるで気持ちよくなってもいいのだと、許されたかのように。  その変化にヒュトロダエウスもたまらなくなって、彼を抱きしめると、奥深くを突き上げた。 「っあ、あっ、あっ、は、です、きもち……い」 「ワタシので、……はぁっ……気持ちよくなってるところをみられるのが、気持ちいいのかい?」  ぎしぎしとスプリングを軋ませながらささやくと、彼はハーデスの手をぎゅっと握った。その上から、ふたりの手を包むようにヒュトロダエウスの手が覆いかぶさって、そして、その指に力がこもる。 「っ……はっ……はっ……イきそう……」  獣欲をむきだしにした声に、彼がぴくっと反応する。  ただでさえ太く、重みのある逸物が、体内の突き当たりを小刻みに突きながら、硬くふくらんでいく。  お預けだったのはヒュトロダエウスも同じことで、急激な射精感に眉根がぐっと寄った。垂れ下がっていた陰嚢がきゅっと縮み、射精への準備が整えられていく。 「ん……っ……出る…………」 「あ、……あっ、……ああっ……」  付け根までぴったりと押し込んだ状態で、どくっ、どくっ、と逸物が脈うった。  ヒュトロダエウスは彼の耳に舌を這わせながら、吐息とともに射精の悦楽を語りかけた。 「……わかるかい? キミのなかに……ん、たくさん出ているよ……あー……きもちいい……」  吐き出した子種をかきまぜるように、ゆるゆると腰を動かす。あいかわらず根元を塞ぎつづけている拘束具をいじくりながら、彼が望んでも得ることのできない感覚をじっくり刻みこむと、彼はひいひいとなきながら、何度もハーデスの手をにぎった。  うねりつづける体内から逸物を引き抜くと、しばらくして白濁液が垂れはじめる。つぎはハーデスの番かな、と目をやると、彼のものは徐々に復活しかけてはいるものの、半勃ち程度だった。とはいえそのまなざしは燃えていて、このまま終わる気がないことは明らかだった。 「ぁ、……ぁ、ハーデス……」 「……舐めろ」  らしくもないぶっきらぼうな命令を下されて、彼のエーテルはむしろ喜びに満ちあふれた。重いであろう身を起こし、クッションに寄りかかったハーデスの股座にすがりつく。  まだやわらかなそれの、亀頭を半分ほどおおった包皮のなかに舌をもぐりこませる。達した直後ではないとはいえ、まだ敏感さを残す先端への刺激に、ハーデスは息を詰めた。  膨張しきっていない今ならば、すべてを咥えることも容易で、下生えに鼻が埋まるくらい飲みこんだ彼は「はーですの、においが、する……」と深く息を吸いこんだ。  おっと、これは引き剥がそうとするかな。と側から眺めていたヒュトロダエウスは思ったが、先ほどとは違って、ハーデスはむしろ興奮したように彼の後頭部をつかんで、ぐりぐりと股座に押しつけた。 「……わあ。どうしたんだい?」 「したいならさせてやればいい」  考えるのが面倒にでもなったのだろうか。友の心境の変化にヒュトロダエウスは感動を覚えた。  彼は陶酔したようにハーデスのにおいを嗅いでいたが、ふと、思いついたように声を上げる。 「ん、はあ……、ハーデス、……ヒュトロに似てきた……?」  ハーデスは微妙きわまりない表情をした。ヒュトロダエウスが笑いをこらえきれず、ぶふっ、と吹き出す。 「……やめろ、萎える」 「フ、フフ、フフフ……っ、ひどいなあ。ワタシに……ふふっ、似てきたってことは、上手くなったってことじゃないかい?」 「っ……は、……こいつが求めることをしているだけだ」 「ワタシもそうだよ。ねえ」  ちゅぱちゅぱと再びハーデスのものをしゃぶりはじめた彼に、ヒュトロダエウスが同意をもとめると、ぼうっとしたまなざしが返ってくる。  無意識のうちに彼は達することのできない性器をシーツに擦りつけていた。粘液にまみれてぬるぬると滑るそれは、ときおりヒクヒクと跳ねて、さらなる蜜を滴らせた。  どうやら限界を超えて、甘イキを繰り返しているらしい。 「ん、は……ヒュトロ……なめて……」 「出せないのに、かい? 困ったひとだね、キミは……少しだけだよ」  腰をひねってかくかくとねだる彼の痴態で、ハーデスのものはほとんど完全な大きさになりかけていた。こいつを犯したい、とその目が訴えている。  ヒュトロダエウスは、射精という機能をうしない、メスのように絶頂しつづける性器に、唇を触れるか触れないかのところまで寄せた。 「ぁ……」  はあ、と熱い吐息をかけて、期待に震える彼のものをたっぷりと焦らしてから、唾液をまぶした舌の腹をやさしく這わせる。 「ぁーっ、あ……あっ……あっ……」  彼の太ももが快感にたえかねて、足の間のヒュトロダエウスをぎゅっと挟んだ。フフ、と笑う吐息にさえ反応して、脚がぴくぴくと痙攣する。  あくまでなだめるような、毛づくろいにも似た舌づかいで、全体を濡らしたあと、口を大きく開けて彼自身を咥えこむ。性器全体を曇らせるような息がかかって、裏筋を円を描くようにゆっくりと舐めまわすが、唇や口蓋は開いたままだった。  その口唇が窄まり、じゅるっと音を立てて吸われるのを待ち望んで、彼はもじもじと太ももを擦りあわせた。  頭髪が乱されたヒュトロダエウスは、笑いながら口を離して、「はい、おしまい」と終わりを告げた。 「すっ、て、吸って……ヒュトロぉ……っ」 「キミが舐めてって言ったんじゃないか。もう忘れたのかい?」 「ぁ、ぁ、……もっと……」 「少しだけとも言っただろう? ほら、キミの愛しいひとが待ってるよ」  彼の頭上にそそりたつハーデスの逸物から、たら、と粘液が糸をひいて滴り落ちた。頬を汚した蜜を指ですくいとった彼は、うっとりとその指をしゃぶった。 「はーです……」 「……、おい?」  ハーデスは、そろそろ彼を解放してやるつもりでいた。彼に舐めさせて、出して、そうすれば拘束具は解除される。  しかし彼は解放を求めることはせずに、力の入らない手足でどうにか上半身を起こすと、ハーデスに抱きつくようにして伸しかかった。 「ぁ、ハーデス、のっ……!」 「…………っ」  ヒュトロダエウスになじまされた後のぽっかりと空いた口は、わずかな抵抗もなくぬるりとハーデスのものを受け入れた。 「……まあ、そっちで《《奉仕》》して彼をイかせても、解除条件には当てはまるからね」  けれどこんなに膝がガクガクしている状態で、そんなことができるのだろうか?  だがヒュトロダエウスの予想は裏切られた。彼はクッションにもたれかかっているハーデスの肩を支えにして、ぱちゅぱちゅと跳ねるように腰を動かし、快楽をむさぼった。 「は、ぁ……っく……」 「ぁあ……あーっ……っ……!」  一方的に受け入れるしかない快感は、ハーデスにとってはなじみの薄いものだ。彼は尻をついたときにときおり腰を不自然に止めたが、それは空イキにひたっているときで、体内のものをきゅうきゅうと絶妙の加減で締めつけているのだった。  ヒュトロダエウスのものを受け入れた直後は、その太さも相まって、なかは緩まってしまうのだが、今の彼は何度でもイって、そのたびに中のものを搾りあげる。自ら腰を動かすまでもなく、ハーデスは頂への階段を一段ずつ登っていった。 「は、あ、です……っ、きもちい……かい?」  恋人の首に腕をまきつかせて、かすれた喘ぎ声とともにたずねる。  ハーデスは思わずぬちぬちと跳ねる臀部を鷲掴んでしまった。 「ぁーっ……大きく……なった……っ」 「やってくれたな……ッ」  恨みがましげにヒュトロダエウスを見たが、奴はどこ吹く風といった様子で、キミたちが喜んでくれてなによりだよ、とにやにやしていた。それにしてもこの理性のぶっ飛び方は、ヒュトロダエウスの予想をも超えるものだったのでしかたがないのだ。 「はーです、手、はなして、うごけない……っはあ」  彼のなかでびぐんびぐんと脈うつ逸物が、今すぐに吐き出したいと訴えているのは明白だったが、ハーデスは臀部をつかんだ指をなかなか離せなかった。肉づきを確かめるように揉みしだき、間をひろげたり縮めたり、そして抱きついている彼の汗にぬれたうなじを舐めたりしながら、理性と欲望のはざまに揺れる。 「……はー、はー……っ」 「はーです……だめ、……」  ほんのわずかに下から突き上げる気配がして、彼はあわててハーデスの腰を足でぎゅっとはさんだ。肩口にこすりつけていた額をもちあげ、視線をあわせる。彼の喉がひゅっ、となった。 「…………お前を、犯したい」  それは初めてみる表情だった。  ハーデスはもはや一匹のオスでしかなかった。彼を押し倒して、体重をかけて拘束して、思うがままに腰を振りたくり、自分のメスをはらませるまで種つけをする。そんなことしか考えていない目をしていた。 「だ、め……あ、あとで……ね」  彼は無言のハーデスの唇についばむようにキスしながらささやいた。  このまま身をまかせて、好きに犯されてしまいたい誘惑にもかられたが、このタイミングを逃せば、もう拘束具を外せない予感がしていた。朝がきたところで、ヒュトロダエウスが魔法を解除するとは思えなかった。性器の根元をあまく締められたまま夜まで過ごして、そしてまたイかせることができなければ、次の日も、その次の日も続いていく……やがて射精できないことが当たり前になんて、そんなことになったら。  彼が自らの妄想にぞくっ……と身をふるわせると同時に、獣欲との戦いにけりをつけたらしいハーデスが臀部からそっと手を離した。 「僕のなかで、気持ちよくなって……っん!」  雄めいたまなざしにじっと射抜かれながら、彼はふたたび腰を上下させはじめた。ずるると抜ける限界ぎりぎりまで引き抜いて、雁首を括約筋に引っかけるようにしながら何度も擦る。  ぎらぎらと睨めつかれながら、彼もまたハーデスの表情を観察していた。ぴくりと動く眉根や、短く吐き出される呼吸といった反応と、連なるように体内がうごめく。  先っぽだけを出し入れしていると、奥がさびしくなって、彼はまた腰をふかくまで落とした。 「あ、……お、おくっ……奥っ……きもちい……っ」 「気持ちよくなって、なんて言いながら、キミが気持ちよくなってるじゃないか。ねえ、ハーデス。……ああ、もう限界かい?」  彼は結腸の奥にキスしてもらえるように、尻肉をぐりぐりと押しつけた。  ハーデスが小さくうめいて首をのけぞらせる。言葉を返す余裕もなかった。勝手に動きだしそうになる腰を気力でこらえていると、もどかしさと快感で頭がおかしくなりそうだった。あとで、と彼に言われた言葉を反芻し、なんとか理性をたぐりよせる。  あとで、あとで——好きなだけ奥を突いて、気を失っても犯してやる。私をここまで追いつめたのはお前なのだから。 「ぁ、また、い、いく……っ、ん……!」  ハーデスはうなるような声をあげて彼を抱きしめた。ドライオーガズムにひたって半開きになった唇をふさぎ、上も下もつながりながら、はげしく蠕動する体内へ、びゅ……びゅる……っ、と射精する。  パキン、と役目を終えた拘束具にひびが入り、エーテルへと変換されていく。  やっと出せる——。  腹の中を満たす脈うちと、あたたかな舌の粘膜を味わいながら、はずむ性器に手をのばした。 「んー、……っ!」  ちゅうちゅうと赤子が乳を飲むように、ハーデスの舌を吸いながら、べとべとに溶けてしまったような性器に触れる。普段のものよりもふたまわりは大きくなったその感触におどろいて、指先がぴくっと震えたが、しびれるような快感に負けて、そっと握りこむ。 「ぁ、っ…………ぅ……っ」  絶頂感はすぐにおとずれた。  舌先までぴくつかせながら快感に身をゆだねる。 「んっ……んっ……ぁ、…………?」  いつもの尿道をかけぬけてくる感覚がいつまで経ってもおとずれない。もし出ていたらそこに飛び散っているであろうハーデスの腹筋をぺたぺたと触る。指にからみついた粘液をかざしてみたが、やはり透明で、白濁した精液らしき体液は見当たらなかった。  快楽にけぶる頭では、どうしていいのかわからない彼に、ハーデスはキスの合間ににやりと笑ってささやいた。 「扱いてほしいのか?」 「ぁ、ちが、まっ……ぁっ、ああっ……!」  ぐちゅぐちゅと容赦のない手つきが彼を襲う。ヒュトロダエウスとは違って、すこしざらついた掌が、あのハーデスに握られて擦られている事実をまざまざと知らしめた。逃れようと膝を立てても、がくがくと震えて力が入らない上に、体内にはまだ硬度を失ってない逸物が、杭のように突き刺さったままだ。  ハーデスは彼の後頭部を抱いて、額をつきあわせた至近距離から、過ぎた快楽におぼれる様子を目に焼きつけるように見つめた。  二度目の絶頂は、ほとんど間髪入れずにおとずれた。  特有の腸内のうねりに、彼の中にある達したばかりの逸物が刺激され、ハーデスも小さく呻いたが、手を止めることはなかった。 「っ……い、いっ……いってるの、に……っあ、あ、で、ないぃ……っ!」  上下に往復するのではなく、付け根から先端にかけてを、射精をうながすように何度も搾られる。それでもなお先端の小さな穴からでてくるのは、透明なカウパー腺液ばかりだった。 「たすけ、あ、はーです、あっ……んっ……」  はじけるエーテルの輝きを存分に堪能したハーデスは、もだえくるう彼の唇を吸って、なだめるように頭をなでながら、彼をあおむけに横たえて腰を引いた。  ぐぽ……と抜けた逸物は、完全には衰えていなかった。それはきわめて珍しいことだった。もう二回も出したというのに、これ以上おさまる気配がない。とはいえさすがに行為をすぐに続けられるほどではなく、すこし時間を置く必要があった。 「……はぁ、……ヒュトロダエウス、代われ」  汗ではりついた髪をかきあげ、ベッドサイドに置いてある水差しから、冷えた水分を補給する。  ハーデスとは違い、ヒュトロダエウスが一度で終わることはまずなかった。彼とハーデスとの交わりの後はなおさらだ。二度目とは思えないほどビンビンにそそりたったそれを、赤く充血した窄まりへ擦りつける。いつもの感触でありながら、彼は怯えたように、ひ、と顔をひきつらせた。 「空イキがクセになって、射精の仕方を忘れてしまったのかな?」  涙や涎でぐしゃぐしゃになった彼の髪をかきあげて、ヒュトロダエウスが頬に口づける。 「でも、困らないよね? 女の子みたいにしかイけなくなったところで……キミはハーデスに抱かれるのが大好きだからねえ」  彼は本能的に身をよじってうつぶせになった。それは逃れようとしたものだったのかもしれないが、結果的には四つん這いで腰を突き出して、雄を誘惑したにすぎなかった。  逃げを打つ腰をひきよせながら「ああ、ワタシに抱かれるのも好きだったね」と思い出したように笑う。抵抗しているのは見せかけばかりで、押しつけた先端は誘うように食まれていた。何よりエーテルがこの先の期待で震えている。彼が犯されるような強引なセックスを好んでいることは、ヒュトロダエウスのみならずハーデスさえ知っていることだ。 「キミが出せない分、また中にたくさん出してあげるよ」 「ぁ……ひっ……」  ハーデスをさがして伸ばされた手は、後ろから覆いかぶさったヒュトロダエウスによって、両手ともシーツに縫いつけられた。  子種でいっぱいになった体内にふたたび侵入する。どちらの視点からみてもとろけるような内部だった。ぴったりと腰を密着させ、円を描くようにかきまぜれば、腹部とベッドにはさまれた性器が押しつぶされて感じているのか、ヒュトロダエウスの下で彼の体がびくびくと跳ねた。 「ぁ、……あーっ、あっ……あっ……」  ただピストンを受け止めることしかできない状態で、かろうじて動かせるのは下半身くらいだった。つぶれたカエルのように足を広げ、なけなしの自由でシーツをぐしゃぐしゃとたぐり寄せる。  ぬち、ぬち、と粘着質な音がたつ。だがその出どころは結合部からではなかった。 「……このままゆっくり楽しみたいところだけれど、彼がお待ちかねだからね。……いくよ」  聞こえているのかそうでないのかも定かではなかったが、彼はたまった唾をごくっと飲みこんだ。 「ん、あっ! あっ! おっ……!」  パンッ……パンッ……と、重いピストンに肺がつぶされ、いっそ無様な喘ぎがひびきわたる。スプリングはいつにも増して不穏にきしみ、膨らんだカリが彼のなかの善いところを余すことなくごりごりと擦った。彼の全身は断続的に痙攣して、いつものようにイきっぱなしになっていたが、ヒュトロダエウスの額からも汗がしたたった。 「は、っ……はっ……」  三人分のエーテルがとろけあい、かき混ぜられる。  誰のものかもわからぬ体液で、ぬるぬるになった腸内は、もはや排泄口ではなく交尾のための器官といって差し支えなかった。挿し入れるときは迎え入れるようにうねり、引き抜くときは名残おしむように吸いつかれる。  興奮のままに彼の首筋を舐め上げる。汗とともにエーテルを味わうと、塩辛さのなかに甘味さえ感じられた。律動の間隔がだんだん短くなり、彼の手を拘束する手に力がこもる。神経が昂ぶり、頭が真っ白になる。ヒュトロダエウスは大きく口を開けた。 「——アッッ……!」  ほんのり赤く歯型のついた皮膚を、さらに吸いあげる。動物のようなマーキング行為をしながら、ヒュトロダエウスは無言で腰を打ち付けつづけた。 「……い、く」  余裕のない声で告げて彼をつよく抱きしめる。  結腸をこじあけた亀頭の先端がひくついた。腰をがっちりと抑えこんで、どぷどぷと種を流しこむ。  ヒュトロダエウスは余韻にひたりたい気持ちをこらえて、いまだ脈うつ逸物を抜きとった。栓をうしなった後孔から、とろとろと真っ白な液体があふれた。 「……はぁ…………」  身を起こすとそれはひどい有様だった。シーツはぐしゃぐしゃに偏って、ところどころ体液でぬめっていた。ぐったりと横たわった彼には、歯型や口づけの跡が残り、尻肉はたび重なる肌と肌とのぶつかりあいで淡く色づいている。むっとした濃密な空気にむせかえりそうなほどだった。  汗だくの身体に気持ち悪さはなくもなかったが、この淫靡な空気がヒュトロダエウスは嫌いではなかった。 「おまたせ、ハーデス……」 「……ん……ぁ……?」 「キミ、忘れてないかい? これで終わりじゃないんだけれど……」  まさに犯されたような姿の彼を、そのまま親友へと明け渡す。  ぎしっとシーツが沈んで、彼はぼんやりと頭上を見上げた。 「っ……は、……です……⁉︎」  正直なところ、彼はたかをくくっていた。  なぜならハーデスはいつもせいぜい二回出すのが限界で、三回目ともなれば、彼にさんざんねだられてようやく重い腰をあげたと思いきや、中折れしてしまうことも一度や二度ではなかったのだ。今回も例に漏れず、普段の淡白さを取り戻すだろう、と思っていた彼の前にさらされたのは、衰えた気配のまったくない逸物が、獲物を前に涎を垂らす姿だった。 「フフ……彼に火をつけたのはキミだからね。それじゃあ、ワタシは一足先に寝ようかな……おやすみ」  ヒュトロダエウスはベッドの端の汚れていないほうへ横たわった。ほぁ、とあくびをして目を瞑る。 「あとで、だったな……覚悟はできてるな?」  据わった目で見つめてくる恋人に、彼の腰から背筋をぴりりとした期待が走った。ハーデスに抱きつぶされるなんてことは、彼にとって願ってやまないことだった。  頬をシーツにつけたまま、へたりこんでいた腰を持ち上げる。  まだヤる気か、なんて小言は降ってこないまま、熱い先端があてがわれて、ンッ、とちいさなうめき声がした。 「あ、……入って……っ、あ……?」  亀頭の張り出たかさが、括約筋をおしのけようとするところで彼は違和感を抱いた。引っかかっている。いつものハーデスのモノではない。規格外といっていいヒュトロダエウスの逸物さえ、今はたやすく受け入れられる彼の後孔が、みちみちと新たに拡げられていく。 「アッ……アッ……ぁ……⁉︎」  混乱して身を起こそうとする彼を、ハーデスが押さえつけ、ぐっぐっと腰を押しつける。媚肉を分け入って徐々にそれは埋まっていった。まるではじめてセックスをしたときのような抵抗感と圧迫感に、彼は首をのけぞらせて喘いだ。 「はっ……はっ……な、……に、なん、……で……っア!」  前立腺をごりっと硬いものが通りぬけ、目の前に星が飛び散ったような幻視を覚えた。  彼が絶頂に意識を混濁させている間に、ハーデスは腰を押しすすめた。 「……起きろ」  耳の軟骨を甘くかじられて、びくんと跳ねる。微弱な気つけの魔力で強制的に叩き起こされた彼は、臀部に下生えがざりざりと当たる感覚で、ハーデスのものが付け根まで挿入されていることを知った。 「ど、……なって……?」 「わからないか?」  新しいカタチになじむのを待って留まっていた逸物が、奥をとんとんとつついた。  彼は「ぁ、ん」と鳴いて一瞬で恍惚とした表情にきりかわった。  腹のナカに入っている逸物は間違いなくハーデスのものだった。エーテル視ができなくとも体は覚えている。彼らを感じると自然と神経がゆるみ、受け入れてしまうのだ。 「はぁです……の……っ、なにか……ついて……ぁっ、ぁっ」  緊張がほぐれてくるにつれて、体内におさまるモノの形がはっきりと浮かび上がってくるようだった。彼は息を荒げながら、自分の下腹部を押して確かめた。  亀頭のくびれをぐるりと囲むように何かが巻きついている。この体積分で太くなっているのだ。 「これ、なん、……あっ、あああっ……」  ずるずると逸物が抜けて、括約筋にひっかかった亀頭が、ぢゅぽっと卑猥な音をともに姿をあらわす。  くったりと体を弛緩させた彼は、やや乱暴にあおむけにひっくり返された。目の前には、見下ろしてくる熱っぽいまなざしと、赤黒く反りかえる逸物……その雁首には首輪のように拘束具がとりつけられていた。 「ぁ、ぁ……そ、それ」 「……は……解呪の条件は、《《夜明け》》だ」  ハーデスは見せつけるように首輪をこねまわしながら、底意地の悪い笑みを見せた。もちろんそれは、彼の根元を締めつづけていた拘束具と同じものに他ならなかった。 「夜明け、まで、……」  射精を制限された逸物は彼を犯しつづける。  今度ばかりは、さすがに無理だ、と彼は慄いた。身体が勝手にシーツのしわをよせながら後ずさる。だが許されるはずもないことはわかっていた。  ハーデスは彼の足首をつかまえて、大きく股をひらかせた。ごぽ、と奥にそそがれていた白濁液がまたこぼれおちて、シーツにあらたなシミを作る。 「た、たすけ、ヒュトロ、んむっ!」  噛みつくような口づけとともに、拘束具で太さをました逸物が侵入する。彼のものと同様に、射精をせきとめられて常よりも肥大している分、今のそれはヒュトロダエウスのものよりも一回りは大きいほどだった。 「んっ、っ、んっ、んんう!」  ハーデスがねちっこい腰使いで、奥をしつこく突いてやると、彼はあっという間に頂へのぼりつめた。ぴんと伸ばされた舌を吸いながら、さらに高みへと押しあげるように腰を振りたくる。  普段の彼ならば、もっともっとと、両手両足でハーデスの体にしがみついてねだっているところだったが、その腕は力を失ってシーツに落ちて、両足は大きく開いて揺さぶられるがまま、指がくぱくぱと握ったり閉じたりを繰りかえしていた。 「ん……はぁ、はぁ、っ……どうだ、いつもお前がしつこくねだってきたものだろう? 存分に味わえよ」  離した唇からつながった糸を舐めとりながら、ハーデスは狙いを奥から前立腺にさだめた。がつがつと突き上げると、彼の身は電流でも走ったように激しくビクついて、瞳を大きく見開いた。 「ぃっ——ひぃっ……あっ、あっ……な、にか、く、くるっ……あ、ああああ!」  ぶしゅっ、ぶしゅっ、と透明な液体が前立腺を突かれるたびに性器から噴き上がった。 「っは……っく…………んっ……」  しぼりとるようなナカのうねりに、ハーデスもまた射精しないまま軽い絶頂をむかえた。  ——なるほど、これは、クセになるわけだ。  おさまらない射精への欲求に、また腰を動かしはじめる。 「ぁー……ん……ぁ………………アァっ!」  ときどき魔力を流して意識を失わせないようにしながら、奥を突きつづけ、夜明けも近くなった頃、彼の性器からはとろとろと漏れでるように精液が垂れはじめていた。  彼は、薄ぼんやりとした意識のなかで、もっとも怒らせてはいけない人物に、ハーデスの名を刻んだのだった。 「……でも、よかったんだろう?」  ヒュトロダエウスの言葉にうなずいて、またしても口車に乗せられることになるのは、また別の話。