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over the knee

 「ぼ……暴力に訴えるなんて、良き市民として、そんなこと君にできるはず……ない……」  エーテルロープで手足を拘束され、床に転がされた男は、彼を縛りあげた張本人である恋人——ハーデスを嘆願するように見上げた。 「ああ私は暴力なんぞ振るわないとも。これはただの《《仕置き》》だ」  いやに優しい声音でハーデスは告げた。いつも眉間にしわをよせ、険しい顔をしている彼は今、いっそ不気味な微笑をうかべていた。どこぞの局長のような笑みだ。つまりめちゃくちゃ怒っているのだ。思い当たる節はたくさんある。それはもうありすぎるほどに。特に創造魔法に関しては、十回使えば半分はため息をつかれるし、たまにとんでもないものが生み出され、このように縛られることもある。そう、例えば《《セックスしないと出られない部屋》》を創ってしまったりなんかすると。 「き、君だって楽しんでたじゃないか!」  男はうねうねともがきながら情状酌量をもとめた。ハーデス作の渾身の拘束具は、なにをどうやっても傷ひとつ付けられそうにないほどの傑作だった。となれば減刑してもらうしかない。 「まあ、それは否定しないとも。だがあいつを巻き込んだことや、危険な創造物を生んだ罪が消えるわけじゃない」 「それなら君だって、……ハーデス、僕はただ君に触れたくて……」 「なぜ言わなかった?」  するどい指摘にうっと言葉に詰まる。その気持ちに自分でも気づかなかった、などというのは嘘になる。気づかないふりをしていたのだ。ハーデスはその気をこれっぽっちも見せなかった。大切に想われていることは疑いの余地もないとはいえ、素肌を触れあわせたい、という欲求を抱えているのが自分だけだと思うと、そう訴えるのが恥ずかしくなってしまったのだ。  だが彼の言う通り、素直に話すべきだったのだ。それで嫌われることなどまずありえないし、悩んでいるのであればその内容がなんであれ、真剣に考えてくれるのがハーデスという男なのだから。  創造物に欲求不満の雑念が混じったことは、まあ、怒ってはいるだろうが、それ以上に、自分の気持ちを恥ずかしいからと蓋をして、言わなかったことが彼は許しがたいのだ。 「……ごめん」  しゅんと大人しくなった男に、ハーデスは多少なりとも溜飲を下げたようだった。 「わかればいい」と男の前にひざまずき、頭髪をくしゃくしゃに乱す。  しかしロープがほどかれる気配はなかった。かわりにぱちんと指をならし、男は拘束されたまま魔法で浮かされソファに寝かされた。これから何をされるのか、男にはまったくわからなかったが、ハーデスはやるときはやる男であり、今の彼はやると決めたハーデスである——絶対にただでは済まされない。 「ほんとうに! もうこんなことは二度としないから、ハーデス、その……お手柔らかにお願いします」  今の彼にたいしてやめてと言ったところで無駄である、ということだけは確かなので、せめてもの慈悲を請うた。ハーデスは口の端をつりあげた。見慣れた皮肉な笑みだったが、それがいつもより愉しげに見えたのは、きっと気のせいではなかっただろう。  ハーデスは自分もおなじソファに座ると、男をひざに乗せた。といっても乗せられたのは頭ではなく尻のほうだった。まさか、と不自由な身でハーデスを振り返る。 「口で言ってもすぐ忘れるやつには、子供のように身体で覚えさせる必要があるだろう?」  ハーデスはローブの上から臀部をなでた。形を堪能するようにさわさわと丸みを往復させる。そして、ほんの軽いちからでぱしっと叩いた。 「……っ!」  恥辱のしびれが走った。痛くもかゆくもないほどの刺激ではあったが、子供のように尻を叩かれるのは、精神的に大きな衝撃を受ける。かっと頬があつくなり、どことなくむずむずとする下肢に身じろぎすると、それを叱るようにふたたび手が振り下ろされる。今度は幾分かつよく、ばしっと弾力に手が跳ねた。 「ぅ……は、ハーデス……」 「どうした。こんなものはまだ序の口だが」  ハーデスは叩いた箇所をなだめるようにさすった。それはもう愉しそうな顔だった。彼にこんなサディスティックな一面があったのか、と男は戦々恐々とした。もしかするとあの一件で目覚めさせたのかもしれない。  撫でさする手がしだいに揉みしだくような動きへと変わっていく。単純な気持ち良さからはあと息を吐いていると、ローブの裾がたくしあげられ、下着がまるだしになる。ほとんど尻を突き出したような姿勢で、このように脱がされると、あの行為がいやがおうにも思い起こされた。下着ごしに尻のあわいを指先でつう——となぞられるとそれはいっそう顕著になって、血液が下肢の中心にあつまりはじめるのを感じた。 「っぁ……」 「フ……なにを期待している?」  ハーデスの手が膨らみのはざまから会陰部をとおり、睾丸をやさしく揉んでから、まだやわらかい性器をつつみこみ、ぐにぐにと捏ねくりまわした。ふう、ふう、と吐息が荒くなる。与えられる快感に夢中になっていると、もう片手でおもむろに下着をずりおろされて、ひややかな外気が素肌を撫ぜた。  バチン! とひときわ大きな音がなりひびく。 「っ……アッ!」  するどい痛みとともに、じーんとしたしびれが尻臀に残った。 「……痛いよ」と泣きごとを言う男に、ハーデスは赤い手型のついた肌をさすってやった。なだめるように、落ち着かせるように。そして気を緩めたところで再度、ばちん! としたたかに手のひらをうちつけた。 「いっ!」と悲鳴をあげて背をのけぞらせる姿にかまわず、同じところをさらにもう一度、二度、と高らかな音がつづけて響きわたる。 「っひぃ……ひぃ……」  男はもうほとんど涙目だった。尻たぶの片側だけが腫れあがっているのではないかと思った。子供にたいしてするような折檻ではあったが、叩きつけられる力はあきらかに容赦がなかった。 「っあァ!」  今度は叩かれたことのないほうの尻臀が打たれる。尻の谷間がきゅっと締まった。逃れようと暴れれば腰を抱えこまれ、まだ赤く染まっていない箇所を責めたてられる。  やがて男はハーデスの手がかるく触れるだけで、びくっと震えるほどに調教されていた。はやくも身体が覚えてしまったらしい。  あまりの仕置にたまらず、腕に顔をうずめると、今度はいつ叩かれるのかがわからないことに気がついた。尻を揉みしだいていたハーデスの手が離れると、恐怖感から身体が硬直し、はあはあと息が荒くなる。今か、今か、といつおとずれるかわからない痛みをただ待つことしかできず、なんでもない身じろぎにすら震えていると、背中にあたたかい手が触れた。 「……悪かった」  ハーデスは恋人の拘束をほどいて抱きしめた。半ば呆然としたままの彼の背をやさしく撫でると、ほろほろと涙が溢れ、肩を濡らした。そうしているとだんだんと落ち着いてきたのか、だらりと垂れ下がっていた腕がハーデスの背にまわされ、ぎゅうと抱きついた。 「ごめんなさい」と男は謝罪を嗚咽まじりに繰りかえした。幼児返りしてしまったかのような彼の姿に、またやりすぎたか、とハーデスは罪悪感でいっぱいになった。しかし、何か硬いものが腹に当たっている。 「おまえな……」  あんなことをされても興奮するのか、と、ハーデスは彼の頭を撫でながらあきれたように言った。 「ごめ、なさい……罰なのに、」  ああそういうことか、とハーデスは抱きしめていた彼をすこし離して目を合わせた。そして涙のうかぶその目尻や、額や頬にキスを落とした。  自己嫌悪に陥っている彼の下腹部に手をのばし、昂りきったそれを緩やかにしごいてやる。だが男はいやがるようにハーデスの手を退けようとした。 「ハーデス、僕はいい、から……僕だけなんて嫌なんだ」 「……はあ……考えすぎだ、馬鹿」  ハーデスは彼の腰を密着するように抱いた。  ごりっとした感触が尻の間をこすり、男は目を丸くした。まぎれもない興奮の証だった。呆気にとられているうちに呼吸を奪われ、唇を割ってはいってきた舌に絡めとられる。そのままハーデスが自らを下にしてソファに横になったため、男も引き寄せられるがまま彼にまたがる形となった。  ゆったりとした座面はふたりが横になるのに不足なくしずみこむ。ハーデスは彼の尻を両手でもみしだきながら、下から突き上げるようにして腰を押しつけた。  いまだ赤みを帯びた肌がひりひりと訴える痛みと、布地ごしに後孔をこじあけようとしてくる物とで、身体の奥がひどくうずいた。ねっとりと絡みつくハーデスの舌に先をねだるよう甘く吸いつくと、尻臀をつかむ手にぎゅっと力がこめられてから離れ、魔法を使ういつもの合図が鳴った。互いのローブがほどけて素肌がぴとりと重なった。唇を食みあいながら、ほとんど息のかかる距離でハーデスは彼の名を呼んだ。 「したくないとは言っていないだろう? 私だって……お前と触れ合っていればこうなる」  先走りでぬるついた物を、彼の尻の谷間にはさみこむようにして、ハーデスは自らの欲望を誇示した。その熱い感触に後孔がひくひくと収縮反応をしめすのを男は堪えることができなかった。 「あ……」  男は恍惚とした表情で、腰をゆるく持ち上げた。自分から窄まりに擦りつけるよう下半身を悩ましげにくねらせる。  ハーデスは息をのんだ。思わず手を振りあげ……途中で我にかえり、ぺちっと控えめな加減で尻が叩かれた。上にまたがる男は、ひ、と小さな声で鳴いて身体を震わせた。だがそれは快感による痙攣に他ならなかった。ハーデスの腹筋につうと蜜が垂れたからだ。その雫を指ですくいとり、尻臀を広げ、皺をなぞるように塗りつける。例の一件でさんざん愛したそこは、ハーデスの指を食むように収縮した。すこし力をこめれば、いともたやすく指先をのみこんだ。 「ん……うっ……」  体内に創造魔法で構築された液体がそそぎこまれていく。奥まで満たされるよう男は腰を持ちあげてそれを受け入れた。はやく欲しくて仕方がなかった。以前まではしたいと思うことはあれど、ここまでではなかったはずなのに、この身体はどうしてしまったのだろうか。ハーデスと触れ合うどころか、あの日のことを思い出すだけで、奥がうずいて仕方なくなるのだ。  ぬちぬちと音を立てて指がぬきさしされる。滑りのよくなった後孔は二本、三本、と指を増やしても引きつれるような痛みはなく、受け入れる準備が整っていることを伝えた。それでも念には念を入れるようにハーデスは、中で指をばらばらに動かして拡張していた。はやく中にいれてほしい男にとってそれはたまったものではなかった。  しかし、もういいと言ったところで、彼自身が納得しないと先に進もうとしないことはわかっていたので、男はハーデスの唇を舐め、ついばみながら、きもちいい、もっとおくに欲しい、とささやいた。そうすればやはり、彼の喉は上下して、指が引き抜かれた。尻の狭間が片手でぐっと拡げられ、彼の濡れた先端が窄まりの位置をさぐるようにぬるぬると擦りつけられる。男は挿入しやすいよう腰を動かして彼を誘導した。 「……っは……ん、は……」  ぐに、と、後孔が押し広げられる。雁首がぬるりと挿入され、そのあとは、いともたやすく奥まで受け入れた。さすがの圧迫感に息を荒げながらも、男はうっとりとした表情で下腹部を撫でた。ここに彼のものが入っていると思うと、それだけで愛おしくなってしまうのだ。中のものがひくっと脈うった。  ハーデスはほとんど密着した彼の臀部をわしづかみ、小刻みに奥を突きはじめた。 「ぁっ……ぁっ、ぁっ……まっ、て」  待って、と制止されてからもしばらくはピストンが止まらなかった。ハーデスという男は、最初はさんざん渋ったり、準備にやたら時間をかける割にいざ行為をはじめると、なかなか我慢がきかなくなるようだということを、最近わかってきた男は、黙って彼の理性が戻ってくるのを待った。  ハーデスは、まさしく理性を総動員していますといった、眉間をこれ以上ないほど寄せた顔をしながら、徐々に腰の動きをゆるめていった。 「はあ……はあ、なんだ……?」 「ハーデス……本当に、僕がどうなっても、嫌いにならないかい……?」 「なるわけあるか……お前がお前であるなら」  無意識のうちに突き上げそうになる腰をどうにか抑えながら、ハーデスは断言した。想い人のわがままくらい、受け入れる度量はあると知ってほしいものだと。 「……その……もっと、さっきの、してほしい……」  さっきの、とは——快感にぼやけた頭ではすぐに答えがでないハーデスに対し、男は恥ずかしそうに「叩くやつ……」と続けた。  あれだけやってまだ懲りてないのか。いや、そういうやつだった——ハーデスは彼を侮って痛い目をみたのだ。ともかく、その程度のわがままであれば可愛いものだった。 「…………まったく……仕置きにならんな……このくらいの力でいいのか?」  先ほどと同じくらいに加減された力で、ハーデスは彼の尻を打った。あっ、と艶やかな喘ぎ声が漏れる。同時にきゅうと後孔が締まり、ハーデスもまた小さく呻いた。 「ぁ……は……も、も、っと、つよく……」  ハーデスはこいつ本気かという顔をしたが、断言してしまった手前、前言撤回することもできず、仕方なく先ほどよりわずかに力をこめて掌を振りおろした。ぺしん、と小気味良い音を立てて掌がはね返った。 「っい……!」 「……っく」  もはや我慢の限界だった。ハーデスは腰の律動を再開させた。 「あ、っあ、あ、あ、っ!」  座面の反発を利用しながらはげしく奥に突きたてる。片腕で逃れられないように腰を抱きながら、もう片方の手でときおり尻臀を打つ。そのたびに括約筋の締まりがよくなり、しだいにハーデスは容赦を忘れていった。  バシン! と自らの手もしびれるほどの力をこめて打つと、男はひいひいと鳴きながら涙を浮かべた。だがそれ以上に感じている証明として、ハーデスの腹筋にはねばりけのある水たまりが生まれていた。 「……は、っ、はっ、……少し疲れた。はあ……お前が動け」  さすがに大の男を乗せた状態で突き続けるというのは骨がおれるものだった。男は倒れこんだまま余韻にひたっていて、すぐには動けなかったが、ハーデスに急かすように尻を打たれて、ひん、と鳴いたあと、ゆるゆると身体を持ちあげた。 「ぁ……ぁ……ん……」  気だるい身体がゆっくりと上下する。  慣れないとはいえあまりにも緩やかな刺激だったので、ハーデスは鞭打ちさながら彼を打った。 「ひ、ぃ……! ふ、っ……ふ、あっ、あっ」 「ん……その調子だ」  今度はぎしぎしとソファがきしむほどの勢いで彼の身体が上下する。ほとんど本能的に良いところに擦りつけてしまい、びりりと快感が走って腰を抜かすと、すかさずハーデスの手が振りかざされるので、彼は必死になって腰を動かした。ストロークを長くして雁首から根元までを括約筋でしごいたり、逆に深くまで咥えこんだ状態で、奥の結腸で先端に吸いついたり、ぐりぐりと腰をひねったりすると、中のものがぐんぐんと大きくなっていくのを感じた。  打たれつづけて熱をもった尻臀をさすりながら、ハーデスは与えられる快感に目をつむって没頭していた。しかし射精感が高まってくると、同時にやはりもどかしさが募りはじめた。 「あ、あ、っ、ハー、デス……?」 「……下になれ」  逸物を挿入したままハーデスは男を四つん這いにさせた。痛々しく腫れあがった尻臀を目前にしても興奮は冷めるどころか、それを叩いたときの鳴き声や中の反応が思い起こされて、むしろ高まる一方だった。  だがこれ以上は、ただの暴力にもなりかねない。ハーデスは彼をさんざん痛めつけたかわりに、中の気持ちいいところを抉ってやった。尻を打ったときとはまた異なる「っん!」と甘い声が漏れた。 「あっ……あっ、あ、ああっ」  男はソファの肘かけにすがりつきながらハーデスのピストンを受け入れた。  ぱん、ぱん、と腰を打ちつけられると、敏感になった尻臀は痛みまじりの快感を伝えた。じんじんと痺れる感覚と、中を突かれる悦びとで、知らぬ間に唾液が垂れていて、ソファの布地に濃いしみを作っていた。 「は……出す、ぞ」  ハーデスは最後にもう一度、恋人の赤く腫れあがった尻を、今までで一番力をこめて打ち叩いた。 「っ……い……ッッ!」  ほとんど声も出ないほどの衝撃を受け、ぶらぶらと揺さぶられていた性器がぴんと張り詰めた。同時にハーデスも最奥に亀頭を押しこんで、子種を存分に吐き出した。腹のなかでどくどくと脈打つそれを感じながら、男はとろとろと白濁液を垂らしていた。ソファにあらたな染みが生まれた。 「っ……ぁ……あ……」 「…………はあ……」  たっぷりと余韻を味わってから、ハーデスは逸物を引き抜いた。一方でまだ快感にひたっている彼を抱きしめる。尻臀に手をあてながら優しく詠唱をささやくと、腫れは見る間にひいていった。 「は……です……」 「どうした」  まさかまた「もっとして欲しい」とか言うんじゃあないだろうな、と危惧したハーデスだったが、幸いにして彼は、胸にすりよって甘えてきただけだった。背をなでてやると、すやすやと寝息をたてはじめる。  こうして黙って眠っていればかわいいものなのだが。と、腕の中にある魂のかがやきに見とれていると、夢でも見ているのか、エーテルがゆらめきだした。ごにょ、と胸元でなにか寝言をいう気配がして、ハーデスは耳をすませた。 「もっと、たたいて……はーです……」  はああああ……と深いため息をついて、ハーデスは目を閉じた。起きたら夢でありますように。